―――闇はどんどん大きくなってきています。

闇は人の恐怖、憎悪が強くなればなるほど強く大きくなっています

今の壊れた斧では太刀打ちできないでしょう。セントラル王国にどうぞいらしてください。

あなたがいいと思う方法で―――





ラフィスは、セントラル王国の宿屋で目が覚めた。

昨日の晩にセントラル王国について、さすがに夜に謁見もできないから宿をとることにして休んだのだ。

もうすでに朝になっていた。

ラフィスは上体を起こして、夢のことを思い出す。あれは神の声か。

闇の力は、恐怖や憎悪。それが大きい東の地域とは・・・?

(それも謁見すればわかることだ)

神はラフィスがいいと思う方法でといわれた。即ち、ラフィスの考えたとおりの計画でいいということだ。





ラフィスが部屋をでるときに、ちょうど隣の部屋のドアも開いた。フェーンフィートだ。

「あ、ラフィス。おっはよー」

あいかわらず、緊張感も何もない。

「オレの好きなようにしていいという、”神サマのお告げ”が下ったぞ」

ラフィスがさっそく夢見の内容をフェーンフィートに話すと、彼女は少しも驚かずに

「そうなの!それじゃあよかった!!さっそくお城に行きましょう。立派なところだったから早く見てみたいわっ」

ノリノリである。現金な奴だ、とラフィスは肩を竦めて宿を後にした。









「何?王に謁見したい?アポイントはとっているのか?」

城の門番に案の定足止めされる。

「いいや、アポイントも何もとっていない」

ラフィスはそれでも堂々としている。

「身分を証明するものと、その内容をきこう」

門番が、いかにも怪しむように二人をみている。それはそうだ。突然現れて王城とは全く縁のなさそうな二人である。

ラフィスはポケットにいれてあるクロードノアのエンブレムと共に、三つ折りにされた手紙を門番に渡す。

エンブレムをまじまじと見定めたあと、門番はラフィスと手紙を見比べながらその内容に目を通す。

そして門番が突然噴出して、嘲笑する。

「なんだ、これは。こんな嘘な内容で王と謁見できると思ったのか。もっとまともな嘘をつけ!」

「嘘じゃないわよ」

フェーンフィートが、門番を睨みつける。

「全部本当のことよ。この世界が危ないの」

「・・・何の目的だ?世界を混乱させようとしてるだけじゃないのか?この反逆者め!」

そう叫ぶとすぐに門番はホイッスルを吹いた。あたりに、甲高い音が響き渡る。耳が痛くなりそうだ。

すると、奥から何十人のも兵士が足並みそろえて現れてラフィスとフェーンフィートに一斉に槍をむけた。

「こいつらを牢獄に叩き込んでおけ」

門番がそう命令すると、兵士たちが二人の両腕をがっしりと掴む。

「ちょ、離しなさ・・・」

フェーンフィートが抵抗しようとすると、それをラフィスが制する。

「今は大人しく捕まっていろ。きっと時がくる」

彼女はしょうがなく大人しくなり、二人は地下の牢獄へ連れて行かれた。





「薄暗くて、肌寒くて嫌なところー」

フェーンフィートは、口を尖らせた。

「なんてわからずやなのよ。本当に王に謁見したほうがいいの?」

今度はラフィスに非難の目をむけた。

「心配するな」

ラフィスはちっとも焦った様子はなく、冷静だった。

「たとえ数日釈放されなくても、魔物が俺たちをかぎつけてここに来たらあいつらだってすぐに理解するだろ」

ラフィスがそういったとき、頑丈そうな牢獄の扉が開いた。

そこから兵士が顔を出す。

「出ろ。王様がお前たちに会いたいとおっしゃっている」

ラフィスは、ほらなという視線をフェーンフィートに送った。

「意外と早い釈放だったがな」



それでも二人は両隣を兵士に囲まれて、セントラル城のカーペットの上を歩いた。

フェーンフィートにしては珍しいものばかりなのか、きょろきょとと辺りを見回してシャンデリアなどに目を輝かせている。

玉座の間が開かれて、二人は王と王妃がまつ玉座に進む。

立派な白いひげを蓄えた王。頭も白いが、ところどころに赤い髪がありきっともとの髪は赤かったのだろうと思わせる。

人の上にたつものとしての威厳を十分に兼ね備えた人だとラフィスは思った。

その隣には、きっとその王と同じ年くらいの女性。年を重ねても気品を失うことはなく美しかった。

王妃の髪の毛も赤い。白髪ではないため、綺麗な真紅をしていた。

王が二人を見て、口を開く。

「この手紙をかいたのは、君たちかね?」

「はい」

ラフィスが答えた。

「これは誠のことなのか?」

王は、ラフィスを見つめる。

「本当です」とラフィスははっきりと言い切った。

「王様も、この国の異変を感じているんじゃないですか?」

今度はフェーンフィートが開口した。

「モンスターとは異なる魔物が最近急増しています。ここを統治するはずの王ならご存知ですよね?

その魔物はこの城の兵士たちじゃあ倒せなかったはず。それは、ダークヴォルマの力だからです」

「・・・先の港町で起こった船の事故。あれは怪物に襲われて二人の旅人に助けられたと市民がいっておるのだが

そなたたちなのか?」

「そうです。あれが魔物です。闇の力はどんどん大きくなり、このままではテスタルトは滅んでしまうでしょう」

「わしらも、この世界の異常には気づいていた・・・。どんどん東のゴルマーシュの街が朽ちかけていくのも」

王がぽろりと口にしたゴルマーシュ。ラフィスはそれを聞き逃さなかった。

「ゴルマーシュ・・・とは?」

「周辺国と領地争いをしている街でな、兵器をつくってはあたりに攻撃を挑んでいる。そこのあたりの草木は枯れはて

君たちの言う魔物が急増し、私たちとて手の打ちそうがなかった土地じゃ。こうなっては、君らを信じるしかあるまい。

決して嘘をついているような瞳には見えない」

王はラフィスとフェーンフィートを交互に見つめた。そしてフェーンフィートに目をとめる。

「ところで、そなたは・・・何か変わった雰囲気をもっているが」

「私はラクシアスランドから、この世界の危機を救うためにやってきたドラゴンです」

フェーンフィートは腕輪を外して、腕の紋様を王に見せる。

これにはさすがに王も驚いたようだ。息を呑んでその紋様を見つめた。

「ふむ・・・なるほど。どおりで異質な強い力を感じると思った」

フェーンフィートの予想とは違い、王は疑いもしなければ冗談とも思っていない。

きちんと状況を理解しているようだった。さすが、頂点の人間は人を見る目も養われているのかもしれない。

「そこで、私たちがラクシアスランドに行って武器の修復を行う間、魔物からの防御を強化してほしいのです。きっと魔物を倒すことはできないでしょう。

しかし、足止めや時間を稼ぐことはできます」

ラフィスがやっとのことで本題に切り出すと、王は頷いた。

「約束しよう。君たちを精一杯サポートしよう。約束の証としてこれを」

王が手をパンと叩くと、そばに控えていた兵士がどこからか腕輪を持ち出した。銀でできたもので、有名なセントラル王国の家紋が刻まれている。

それをラフィスに差し出した。彼は黙ってそれを受け取る。そして深く礼をした。









「王様ってすっごくいい人なのね」

フェーンフィートが言う。二人は、既に城から出て城下町を歩いていた。

「確かにあそこまで物分りがいいとは思わなかったな」

ラフィスも言う。腕にはしっかりと銀色の腕輪が光っていた。

とくみれば、この城下町にはさまざまなところに腕輪と同じ家紋が刻まれていた。町で売り出される産物や鉱物。

城下町を見回る兵士の鎧の胸にも大きく刻まれている。こうすることで、世界に王国の権威を知らしめているのである。

 善は急げということで、ラフィスたちはその足ですぐさまラクシアスランドに向うことになっている。

「ところで、闇の根源が浮き彫りになってきたな」

「ゴルマーシュってところのこと?」

「そう。憎悪や恐怖を生む理由が存分になり、異変もそこを中心に強くなってきている。道理がたつ話だ。ラクシアスランドから戻ったらすぐさまそこへ向おう」

「憎悪や恐怖・・・か。ゴルマーシュがどんな状態かはわからないけれど・・・」

フェーンフィートの表情は曇っている。

「どうして人は争うのかしら」

「・・・人間の動物的な本能かもしれないな。人は満たされるとどんどんと欲深くなっていく。知識や力を得るとそれを試したくなる。

そうして別の人間を犠牲にし、優越感を得る」

ラフィスはあくまでも無表情で言った。

「・・・あなたも自分を試したい?世界一になりたい?」フェーンフィートは興味本位できいた。

「斧術を使う者としては向上心を失っては終わりだと思っている。だが、それに捕われて破壊のみに目がくらんでも満たされはしない。

それによって得るものなど虚偽でしかない」

ラフィスはそう返した。

「私たちもね、強くなりたい気持ちはあるのよ。力を得たら試したい気持ちも分かるし、人にも自慢したい気持ちがあるわ。

でも、私たちが強くなるのはラクシアスランドを守るため。そして神様を守るためだから」

二人が話している間に、セントラル王国の城下町を出て人気のない台地へときていた。なぜかといえば・・・

「ここまでくれば、人間にばれずにドラゴンになれるわね」

フェーンフィートが、瞳を閉じる。その刹那、彼女から眩い光は発せられた。

ラフィスはその光に目を硬く閉じ、腕で光を遮ろうとする。数秒でその光はおさまったが。

彼が目をあけたときには、フェーンフィートの姿はなかった。そのかわり、大きな赤い物体。視線を徐々に上に移して行くと厳つい顔した怪物の顔。

さすがのラフィスの顔も強張る。ところが、それはすぐ一変した。

『やあねぇ、そんな怖がらなくっても』

フェーンフィートののんきな声がしたからだ。翼を広げ、どっしりとした体。全身を覆う硬い赤い皮膚。ぎろりとした目。鋭い爪に牙。

フェーンフィートの面影なんてまったくないが、彼女であることは間違いないらしい。

『見直した?』

彼女は、その厳つい顔をウインクしてみせた。正直なところ気持ち悪い。

『さぁさぁ、さっさと私の背中に乗って』

フェーンフィートは、しゃがんで背中にのるように促した。ラフィスは躊躇しながらもその背中に乗る。

ふと、背中の翼に目がいく。傷はもう既に綺麗に消えていた。

彼女がゆっくりと翼をはためかせて、地上からゆっくり離れていく。数十メートルほどの高さになったとき

『じゃあ、いくわね。しっかり捕まって』

言うや否や、彼女は猛スピードを出してラクシアスランドがあるだろう方向へ飛んでいく。

風の抵抗も重たいほどで、振り落とされないのがやっとのラフィス。

島や海や山や、空を飛ぶ鳥でさえ見下ろしているのが変な気持ちである。

ラクシアスランドについたのは、離陸してちょっとしてからであった。