モンスターズトレーヤー
「アルモンゴラ!?」
リコリスとアルミオンの声が重なった。
何かがアルモンゴラの堅い皮膚を突き破ったのだった。
アルモンゴラの体は音をたてて地面に崩れ落ちた。モンスターたちが混乱するなか、リコリスとアルミオンが駆け寄る。
まだ命はある。
だが・・・
「リコリスふせて!」
アルミオンが思い切りリコリスの腕をひっぱり、地面へ伏させる。また煌きとともに何かがこちらに飛んできたのだ。
数センチのそれはカン、と音をたてて壁にぶち当たった。
ナイフのような刃物。刃先には、毒が見て分かるほど塗られている。
飛んできた方向は広間の入り口・・・。つまり、先ほどリコリスたちがここへ入ってきたところ。
「誰!?」
キッとリコリスはそこにいるだろう人物を睨む。機械的な弓を構えた男性が一人、立っている。
「おいおい。せっかく卑しきモンスターズトレーヤーを消してやってるというのに・・・」
男がにやりと笑ったような気がした。だが、その声をきいた瞬間リコリスの表情がこわばる。
伏せた体を起こしてゆっくりと立ち上がった。
「あなたはまさか・・・」
私の両親を殺した―――・・・
「あなたは何者ですか。今まで僕たちをつけてきたましたけど」
アルミオンが、アルモンゴラの治療に専念しながら尋ねる。広間に入る前からずっと視線は感じていた。
アルモンゴラの傷は幸い急所をはずれている。急いで魔法をかければまだ間に合うかもしれない。
「俺の存在に気付いてたのか?俺は町の人に雇われたアサシン・・・殺し屋よ。
最近モンスターが急増してきてるそうじゃないか。いろんな町の人間がいってたぜ。
モンスターズトレーヤーの仕業だって嘆いてたから俺に仕事をよこしたってわけだ。・・・モンスターズトレーヤーの抹殺いわばその“モンスターの神”の抹殺を、な」
なるほど、アルモンゴラを殺せばモンスターズトレーヤーは生まれなくなる。
「そんなこと・・・絶対させません!」
リコリスの眼が怖気づくことなくアサシンを睨みつけた。
『若きモンスターズトレーヤーよ』
アルモンゴラの低い声が、再びリコリスにかかる。リコリスも慌ててアルモンゴラを振り返る。
まだアルミオンの術を受けている最中だった。
『お前に力を授けよう』
リコリスの体がアルモンゴラと共鳴したように一瞬光り、そして彼女の脳内に閃光が走る。
(力・・・。モンスターズトレーンの・・・)
凛々しい顔で腰についていたケースから一枚のカードを取り出した。
それを迷わず召喚する。
「トルティス!!」
カードから、ふわりと舞い出た大型の鳥。・・・リコリスの母親の付き添いのようなモンスターだった。
輝くような両翼。人が見上げるぐらいの大きさなモンスター。
あいつを追い払って、指示するとまるで意気投合しているようにそれを行動に移す。
「きたな、化け物!」
にやりと卑しい笑いで、機械的な特殊な弓を構える。矢のかわりはあのさきほどの刃物。
シュンと音も無くそれを放つが、トルティスはたやすくそれを避けてアサシンに急下降してきた。
羽根が空気を打つ。それはカマイタチのごとくアサシンの体に傷を作り上げていった。
「くっ・・・!」
だがアサシンはトルティスを隠していた剣で払い、またあの弓を片手で構える。
「いい加減引退したらどうだ、アルモンゴラさんよぉ」
矛先は、未だ起き上がらないアルモンゴラ。
「やめてぇッ!!」
カラァン・・・
放たれようとした、その刃物が・・・リコリスの声と同時に落ちた。
男の腕を切り裂いたのはモンスター。
真っ白に波打つ体。獣のようなすらりとした4本足。トルティスに負けないくらいの体長。
「ア、アルテミス・・・」
リコリスが勇ましくたつそのモンスター、アルテミスの姿を見据える。
アルモンゴラの最も信頼のおける守護モンスターだった。
「く・・・。ばけものが・・・!まだ、いたのか・・・!!」
腕を押さえ込み、背を丸めてアサシンはアルテミスを睨み上げた。
今だ、相手が攻撃態勢を整える前に追い返さなければ・・・。
「トルティス!」
リコリスの一声で、トルティスが赤い翼でアサシンの視界をさえぎる。
そして今頼りにできるのは・・・。
「アルテミス!!」
トルティスの後ろから、鋭い爪がアサシンを押さえ込んだ。どのくらいの圧力がかかるのだろう、前足はしっかりと男の肩を抑えていた。
リコリスがアサシンに歩み寄る。
「今すぐ帰りなさい。それと命が惜しければもうここに近づかないことを勧めますが」
全身がほとんど赤に染まった男は必死にうなずいてるようだ。目はもう据わっている。
アルテミスに頭を食べられそうな勢いなので、意識は半分飛んでいるようだが。
アルテミスはゆっくりと男の上から退く。すると、アサシンは顔をこわばらせたまま這い出るようにして逃げていった。
あれが殺し屋なんて異名には思えない姿だ。
「あ、まって!」
今までのことが嘘のような明るい声で、アルミオンは殺し屋の男を呼び止めた。
「僕はまだ、あなたにすることがあるんです」
くっと、男を引っ張り上げ奴の頭に片手をかざす。白い光がほぅっと現れ・・・
「ちょっと手荒だけど我慢してね」
その優しい光からは考えられないような衝撃波で男の体が宙に飛んだ。
どん、と体が壁に打ち付けられた。だが、アルミオンはこれで満足したらしい。
気絶した男をそのままにアルモンゴラのとこに再び駆けてくる。
アルモンゴラはアルミオンの白魔法が効いたらしくその場に立ち上がっていた。
「アルミオンさん、今のは一体・・・」
不思議そうな顔してリコリスはアルミオンと気絶アサシンを見比べた。
「うん、ちょっと一部の記憶だけ消そうと思って、ね。僕の姿みられたなんて知られたら、またフィーナに何か言われちゃうしね」
後で神々の聖地の前においとけばいいし、とアルミオンはいっていた。
「それよりリコリスのモンスターも傷ついてたよね。僕が診るよ」
『不思議な少年よ、感謝する・・・。毒が回っていたとは思えない体だ。助かったぞ・・・』
アルモンゴラはあの時、治療してくれたアルミオンに感謝の言葉を。そして・・・
『若きモンスターズトレーヤーよ・・・。お前にも感謝しよう・・・』
今度はリコリスに。だが、あの時のリコリスとはうってかわって、今のリコリスは地面にへなへなと座り込んでいた。
緊張が解けて安堵したんだろう。
『お前はこいつを連れて行くがいい』
そんなリコリスに柔らかい声で、言った。こいつ・・・それは、アルモンゴラの隣りにいる真っ白なモンスターだった。
「え・・・?アルテミス・・・?」
『気位高いこいつが、いうことをきく人間なんてお前だけだろうからな・・・』
アルテミスも、それを待ち望むようにリコリスを見つめていた。安心とか、満足とか、嬉しさとか、
そんな想いでリコリスの顔が緩み、温かい笑顔に変わった。
「ありがとうございます・・・」
アルテミスはリコリスに歩み寄り、新しい主人を迎え入れるかのように隣りにうつぶせた。
アルテミスも無事封印し、大切にカードホルダーにしまったリコリス。
目的も果たし、シオンたちとの待ち合わせる場所へ向かっていた。アリーナという町だ。
「アルミオンさん、本当にありがとうございました」
暗くなって、涼風を体に浴びながら歩いていく。
「いや、べつにいいよ。・・・それよりリコリスはこれからどうするの?」
「えーっと・・・」
彼女自身の目的は果たしたわけだ。これからは一人でモンスターたちを見ていくわけだが・・・。
「ねぇ、僕たちと一緒に来ない?」
決して勢いで言った言葉ではない。きっと自分達にとってもプラスとなる。そう考えた結果だ。
躊躇していたリコリスが弱々しく言葉を返す。
「でも・・・あの人は・・・」
アルミオンはリコリスに軽く微笑む。
「フィーナなら大丈夫だよ。本当は、優しい子だから・・・」
もう長い付き合いになるからね・・・。
今でこそキツイ性格にみえてしまうけれど・・・。
昔から、優しいところは変わってないんだから。
“あれ以来”だもんね、フィーナがかわっていったのは・・・。
アルミオンの言葉をきいたリコリスは、「じゃあ・・・」と顔を輝かせて一礼した。
「はい!よろしくお願いします」
こうして2人はアリーナの町へとたどり着いたのだった。
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