対峙
「こここ、この人がラフィスぅーッ!?」
シオンは口をパクパクしながら目の前に仁王立ちしているラフィスを指差す。
「あぁ。貴様が例にいうシオンという奴だな」
ちろりと横にいるフィーナを見た後、ラフィスは再びシオンを見つめる。ただ見ているだけなのかもしれないが
その迫力に圧され、睨まれてるような気分で少々怯むシオン。
「それよりもラフィスさんはなんでここに?それから僕たちのことも…覚えているの?」
フィーナの後ろからひょっこり顔を出すアルミオン。
小さく頷き、ラフィスが口を開いたそのときだった。
バリーーーンッッッ ガラガラ…
いきなり、玉座の前にあったステンドグラスが弾けとんだ。虚しい音を立てて崩れていく。
と思ったら、爆風が起こり、部屋全体を巻き込んでいく。
「きゃあッ!?何事ですか!?」
「何だ!?」
リコリスたちの悲鳴。それから風が耳を切る音。
それしか聴こえないし、風に抵抗して踏ん張るのが精一杯で何が起こったかなんて確認できやしなかった。
ふわりと、爆風はだんだんおさまっていった。改めて顔をあげ、あたりを確認するときらびやかな装飾がすべて吹っ飛びばらばらになった室内と
ステンドクラスが弾ける音がして聞きつけたのであろう兵士が地面に倒れていた。
さらによくみると、バラバラに破壊されたステンドグラスのもとに一人、禍々しいオーラを放ちながら佇んでいる人がいた。
(誰だ…!?)
目を凝らしながら、その人物をよくよく見てみるシオン…。
「ダークヴォルマ…!」
そのシオンの横で、ラフィスが小さく呟いたのを彼は聞き逃さなかった。
シオンの目が大きく見開かれる。
(ダークヴォルマ…!?こいつが…!?)
黒いローブで全身を覆い、顔なんてわかるものではなかったけど、確かにその存在は人間のものとはかけ離れていた。
「初めまして…かな」
にやりと笑った声色。
「あぁ、見知った顔もいるな…。ラフィス…転生したのか」
「貴様に話す筋合いなどない。…カルナ様、あなたは奥へと隠れていてください…」
ラフィスは、ダークヴォルマを見据えたままカルナに言い放つ。
「ええ、分かりましたわ…。…援兵を呼んできましょうか?」
数歩後ろに下がりつつ、控えめにカルナは尋ねた。だが返された言葉は
「いえ、必要ありません」
きっぱりとした言葉。その真剣な声は、援兵なんて無意味に等しいと語っているようだった。
ラフィス、それからシオン達、リコリスも一斉に武器を手に持ち、モンスターを呼び出した。
それを見て、小さく笑うダークヴォルマ。6対1なのにもかかわらず、顔色ひとつ変えてはいない。
「ふっ…。わたしに争う気などはない」
視線はフィーナに向けられた。
「わたしが用があるのは、そこの竜娘だけだ」
すっとダークヴォルマの手がフィーナに差し向けられる。
「わたしは物事を穏便にすませたい…。ついてこい、竜娘よ」
「馬鹿が…。答えなど決まっている」
フィーナの手から、炎の玉が奴に向かって飛び出す。
だがその炎の玉は奴の前でパンと弾け、消えうせた。
「ちッ…」
「答えはノーということか。しかたない…」
シュンッと音をたててダークヴォルマが姿を消した。かと思うと、シオン達の後ろで、「ギャッ!!」とリコリスのモンスターの悲鳴があがった。
まるで瞬間移動のように、数メートルの距離を一瞬で移動していた。
「このモンスターの命、惜しくはないか?」
暴れるモンスターをいとも容易く押さえつけ、その首にスラリとした妖しい輝きを放つ剣を突きつける。
「アルテミス…!」
リコリスが蒼白して、モンスターの名を呼ぶ。それすらもあざ笑うかのようなダークヴォルマ。
「何を企んでいる…?」
じりじりとにじり寄るように、ラフィスはダークヴォルマに近づいていった。
「その剣を完成させることは、復活したての貴様などにできるはずがない。人間とラクシアスランドの混血を媒介に使い、貴様の力を注ぎ込むつもりだろう。
神狐の生贄なんてとんだデマだな。…すべて貴様の仕業だろう」
すべてを見透かしたフィーナが、ダークヴォルマを睨む。
「…ほぼ正解だよ。ただし…剣が完成する方法はもうひとつあったんだ」
ダークヴォルマがモンスターを押さえつける手により一層力が込められる。
「破壊の根源である黒魔術をこの剣に注ぎ込むこと…。さぁ、このモンスターの命が惜しければ、こっちにくるがいい」
ゆっくりと剣を突きつけると、アルテミスの真っ白な体に真っ赤な血が飛び散った。
「いやぁっ!!や、やめてください!!もうお願いですから…。そのこは傷つけないでください!」
へたりと地面に座り込み、涙を落してリコリスは懇願した。
「大丈夫、落ち着いてリコリス。まだアルテミスは生きているから」
アルミオンは、リコリスを落ち着かせるようにしゃがんて肩に手をそえてやる。そしてダークヴォルマをキッと睨んだ。
「わかった」
フィーナの口からそう発せられたのは、それからすぐだった。
フィーナは自らの足でダークヴォルマのもとへと歩んでいった。そこにいたみんなが目を疑った。
「物分りのいい娘でよかったな。…ではもう用はない」
ビイインと耳鳴りのような耳障りの音のあと一瞬の閃光。
その一瞬ののち、その場所に残っていたのは倒れたモンスターとさきほど飛び散った血だけだった。
「ちょっと…まてよ。フィーナはどうなったんだ…!?」
放心状態のシオンは呆然とその場を見ながら、言った。当然、返事なんてかえってくるはずがない。
そこにいる誰もが固まっていた。
「リコリス…。なんで…!フィーナは仲間だろ!?モンスターなんか!!」
とにかく怒りに身をまかせたシオンは、座り込んで俯いてるリコリスに怒鳴りつけた。だが、今の言葉に反応したのはリコリスではなく彼女の傍にいたアルミオン。
立ち上がり、まっすぐシオンへと向かい合って、
バチィン
と静まりかえったそこに、音を轟かせる。シオンの頬を思いっきり平手打ちしたのだった。
「僕達は仲間じゃないよ。君を導くために…守るために遣わされた、道具なんだ…。そしてアルテミスはリコリスの仲間である君の仲間だよ」
いつもと違うアルミオンに面くらいながらも、シオンは素直に頭を下げて呟く。
「ごめん…。ちょっと…どうかしてた…」
「うん…。今は後悔よりもフィーナを助けることが先決だよ」
「でも…あいつ、一瞬で消えちゃったよ?どこ行ったかなんてわかるの?」
メルがおずおずと尋ねる。そこでラフィスが一言。
「…やつの帰る場所はひとつしかないはずだ…」
「時の…狭間ですね…」
座り込んでいたリコリスが、倒れているアルテミスに近寄りつつ言う。
「アルミオンさん、この子の治療お願いします…。そして皆さん…すみませんでした。私が必ず時の狭間までご案内します」
リコリスはぎゅっとプルートのカードを握り締めて力強く言った。
「ラフィスも一緒に行くのか?」
アルミオンがモンスターの手当てをしている間、シオンが不意にラフィスに訊く。
「行きたいのは山々だが、今この時期にセントラル王国から離れるのは危険だ。俺はここに残って…」
「なにいってますの、ラフィス」
二人の後ろで、カルナの声が。二人同時に振り返った。どうやらカルナは無傷のようだ。
「あなたは、今日のために生まれてきたのでしょう?…行ってらっしゃいな。この王国ならそんなヤワじゃありませんわ」
ラフィスに強く言い放つカルナ。ラフィスはそれにふと息をつき、またシオンへと視線を戻した。
「…同行させてもらうぞ、シオン・ガッシュナット」
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