光そして記憶



フェーンフィート・・・さん?

フェーンフィートさんは誰?

私の・・・、ずっと尊敬していた竜・・・。



フィーナ・・・。

あいつのいう、フィーナというのは誰?

どうしてそんなに嬉しそうに呼ぶの?

そうしてそんなに必死だったの?



あいつが、あの町の倉庫で手を差し伸べた子供たちは安心していた。

あの子たちの心の中に光が生まれた。

ヒカリ?





―――だから今度はオレがみんなの…フィーナの光になろうと思ったんだ―――



心の中にぼんやりと人影が写る。

懐かしい声。



―――フィーナはオレが守るよ―――







今はお前という光がいるんだったな



シオン、ありがとう…













「おーい、ディーゼルどこだよー?」

禁断の黒き森に足を踏み入れたシオン。

正直、怖い。

あたりからは不気味な音が聞こえるし、光が遮断されていて名前どおりの暗さと寒さだった。

こんななか、どうしてディーゼルは入っていったのか・・・。

いくらか襲ってきたモンスターを払いのけ、それでも奥に進んで行く。

彼がラクシアスランドにもう一度戻ってきた理由・・・それは―――・・・。



「シオン」



どこからか、突然ディーゼルの声が聞こえた。

あたりを見回すが誰もいない。

そのとき、



バサッ



突然真後ろの木から、何かが振ってきた。

いや、ディーゼルが木から飛び降りたのだ。

びくんとしたシオンの動悸はかなり早いものになっていた。

「ディーゼル!脅かすなよ!!」

「・・・こんなことで驚く貴様が悪い」

一言で片付けられてしまった。

だが。何か違和感を感じる。見た目や声は確かにディーゼルなのだが・・・雰囲気がいつもの彼女ではない。むしろ・・・

「・・・・・・フィーナ?」

シオンが恐る恐る尋ねると、ディーゼルは頷く。

「本当の本当にフィーナなのか?」

と、詰め寄ると彼女は呆れたように

「お前は相変わらずだな」

と、嘲笑にも似た笑いだった。

シオンの動きが止まる。頭の中も真っ白になった。

夢か幻のようだった。2年前、命を落とした「フィーナ」が目の前にいることが。

そんな彼の様子を不思議に思ったディーゼルは

「シオン?」

と呼びかけると同時、シオンの手がディーゼルに伸びた。

彼の体にディーゼルが引き寄せられると、まるでその存在を確かめるかのように力がこめられる。

「人間の2年は長かったんだからな」

シオンが小さくそう囁くと、ディーゼルはふっと柔らかい表情で言った。



「あぁ・・・ただいま。シオン」









黒き森から、ディーゼルとシオンが二人で帰宅したとき皆の反応はおもしろいほどにすごかった。

なにせ、ディーゼルがフィーナの記憶を思い出したのだから、ムリもない。

「フィーナさん、私のことわかるんですかぁぁぁあーー??!」

リコリスが泣きつくくらいの勢いでディーゼルの肩を揺さぶると

「あぁ、うざいくらいに思い出した・・・」

と、彼女らしい辛辣な言葉がかえってきた。今のリコリスにはそれでさえ、なつかしいらしい。喜んでいた。

「それにしてもよかったね、シオン!」

メルが満面の笑みでシオンに言う。

「一体どうしたの?チューでもした?」

「そ、そんなわけないだろ!!」

「何そんなに慌ててんのー、冗談だよ」

顔を真っ赤にして慌てるシオンとそれをからかうメル。

それをまったく無視して、ディーゼルはアルミオンに話しかけた。

「苦労かけたな。お前一人でラクシアスランドやこいつらのお守りをするのは大変だっただろう」

「気にしなくてもいいよ。もう慣れてるし」

まるで月日を感じさせない二人の会話と関係。それを見ていたディアが

「ディーゼル、お前昔アルミオンのこと好きだったんだろ?」

まるで空気を読まない発言に、その場が固まった。

数秒凍結したディーゼルだったが、今度はものすごい速さでディアの頭をわしづかみにした。

「どうゆうことだ?」

恐ろしいほど冷たい声だ。ディアもさすがにびびっていた。

「いたたたたッ!いや・・・リースからそうゆう噂をきいたことがって・・・どうなのかなーって・・・・」

「あの馬鹿馬のいうことなんか信じるな」

ディアを投げ捨てるように、手を離すとよほど強い力だったのか彼の頭にはくっきりと手形がついていた。

まるで容赦がない。

そう和やかな(?)時間が流れているとき、突然空気が変わった。



来客だった。しかもただの客ではない。いつもは神殿の中にいて決して姿を外に出さない・・・

「神様!?」

皆の声が揃った。

神々しいオーラはそのままに、神は温かく『こんにちは』といった。

皆が唖然としていると、神はディーゼルの前までやってきて

『お久しぶりですね、フィーナレンスドラゴン』

「お久しぶりです」

ディーゼルは深々と挨拶をした。

『記憶を思い出したのですね』

神はちらりとシオンのほうをみた、気がした。

『やはり、あなたはそれが一番らしいですね・・・。ですが、あなたは人間精霊。きちんと役目もこなして貰わなければ困ります』

「わかっております」

ディーゼルがはっきりと答えた。

『人間精霊たるもの、やはり人間の傍で監視するのが最良の方法だといえるでしょう。・・・あなたは今日からテスタルトのトールト村を拠点として働いてもらいます。

・・・よろしいですか?』

皆が一斉にシオンの方向を見る。トールト村。シオンの故郷の村である。

「はい・・・」

ディーゼルが静かに答えた。

「ありがとう、ございます・・・」

『シオン、ディーゼル。あなたがたには、本当に感謝しております。これからはテスタルトで自分の使命を全うしてください』

神はそう告げると、ふっと霧のように消えてしまった。言いようのない感動が胸の奥から湧き上がってくる。

「ちっ、この女がトールト村に来るのかよ」

グレンが冗談っぽく舌打した。そう、ディーゼルの拠点はトールト村になったのである。





すべての人間が生きる意味があるように

すべての神獣も生きる意味がある。

ディーゼルホフスの生まれた意味。

それは、もしかしたら光の勇者に今一度会うため・・・―――





ディーゼルは、澄み渡ったテスタルトの青い空を見上げてそう思った。







FIN

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