突然の雨とラースドの寄り道のせいでリアス達の旅の予定は狂ってしまい、とりあえず一行はスぺーケルという町にたどりついた。

モノリストンネルを超えてからすぐにモノネナにたどり着けると思っていたリアスだけに、こんなところで足止めを食らうのはもどかしい気持ちだった。

不況の影響か、宿屋はほとんど人がおらずほとんどリアスたちの貸切状態だった。

4人はロビーでひとつのテーブルを囲んでいた。

「とりあえず明日こそモノネナにつくわね」

ルルフがいう。

「モノネナで一体何が起こったのか。波長の根源を調べたらまずティラミスを故郷に帰すのが一番ね」

「え?」

ティラミスが驚愕する。

「オレも賛成だ。とりあえず感応石との関連がわかるだろうし、それを頼りにティラミスの故郷もわかるだろ。それから不自然災害のことはオレ達で調べよう」

ラースドが確認をとるようにリアスに視線を送ると、リアスも頷いた。

「うん。確かにティラミスには危険だと思うし、オレもそう思う」

「でも・・・!」

ティラミスが抗議の声が上がったが、それは途中で遮られた。

 

「これ、落としましたよ」

ラースドの横にスッと現れた男性によってだ。彼はラースドに紙を手渡した。

あの鍾乳洞で見つけた論文の切れ端。どうやらふとした拍子にラースドのポケットから落ちてしまっていたらしい。

「あぁ、悪い」

ラースドがそれを受け取り、男性の顔をみるとどこかで見覚えのある顔だった。

「あれ、君たちは・・・」

男性も4人をみて動きが止まった。

「あ!!あんたは確か・・・セルウィン!」

リアスが男性を指さしながら、驚きの声をあげた。

そう、モノリストンネルを抜ける前に馬車の中で出会ったトレジャーハンター―――セルウィン・ダークスだった。

琥珀色の瞳がリアスをみて微笑んだ。

「嬉しいな。覚えていてくれたんだ」

「奇遇ね。あなたもこの地方に来ていたのね。お目当てのものはあったのかしら」

ルルフがセルウィンに尋ねると、セルウィンは首を振った。

「はは。もう小物しかないよ」

彼の眼は、ラースドの手の中にあるあの論文に移された。

「ところで随分と不思議な紙を持ってるね?『次元の歪み』だなんて」

「あぁ、これは今日鍾乳洞で発見したものなんだけど論文の内容も何もないものだよ。鍾乳洞には他に白骨化した死体しかなかったし」

リアスがセルウィンに説明した。すると彼は目を丸くして「へぇ」と感心の声も漏らす。

「あの鍾乳洞に言ったんだな。昔からあの場所は化け物の住処だと町の人からは恐れられていたけど」

「化け物・・・あのオートマターのことだね」

ティラミスがテトラのことを思い出す。

セルウィンがリアス、ルルフ、ラースド、ティラミスと順順に見渡していく。彼らのような子供がそんな化け物退治したとは思えないのだろう。

「君たちがオートマターを撃退したなんて・・・」

「セルウィン、オートマターのこと知ってるのか?」

リアスが尋ねると、セルウィンはぎこちなくうなずいた。

「少しね。そういった関連に知り合いがいて」

そこで、今までの話をきいていたラースドの眉間に皺が寄る。

「化け物・・・昔から・・・?」

「そう。約半世紀前くらいからそんな話がずっと伝わっているらしい」

セルウィンがいう。

「おかしいな。オートマターが出現し始めたのは、せいぜい数か月前くらいだろ?そんな昔からあんな高性能なオートマターがいたなんて考えられない」

ラースドが口元に手を当て、ぶつぶつと考えこみだす。

「テトラは最も初期段階に作られたオートマターだと思う。とても弱かったし、今までのようなオートマターの動きと少し違ったもの」

ティラミスがいう。リアス達には、今までのオートマタ―との違いはあまり分からなかったのだが。

だが、ティラミスの考えだと50年前程度に既にオートマターがあの洞穴に存在していたことになるのだが・・・。

「次元の歪み・・・これも何かオートマターに関係が・・・?」

ラースドが独り言のように紙切れをみて呟いた。

「オートマターに詳しく、そして不自然災害を引き起こす波長は感応石と同じもの、そして次元の歪みもオートマターに何か関係があるとすると・・・」

ラースドの目線がちらりとティラミスに向けられる。

じっと黙って見据える彼の視線に、なぜか居た堪れなさを感じてしまう。

彼女は慌てて席を立った。

「わ、私、疲れたから先に休むね」

彼女がそう言ってロビーから出ていこうとした時に、不意に腕を掴まれ引き留められた。

唖然として振り返るティラミス。

セルウィンに、だ。みんなの注目が二人に集中する。

「それ・・・」

セルウィンが見つめるのは彼女の首にかかる感応石。

「一体どうしたんだ?どこで手に入れた?」

興味、どころの反応ではなかった。彼の言葉はどこか必死さを感じさせる。

そんなセルウィンに、ティラミスも返す言葉が見つからず戸惑いを隠せない。

「ちょっと、ティラミスは記憶がないのよ。無茶なこと言わないで」

ルルフがセルウィンを制すると、セルウィンも我に返ったように手を離した。

「あ、ごめん」

「ううん。私も力になれなくて・・・」

ティラミスは言う。

「私達も今、それを調べているの」

彼女の腕は赤くなっていた。

それからティラミスは逃げるように、自分の部屋に戻っていった。

 

「あの子・・・ティラミスは記憶がないって・・・」

セルウィンがロビーに残っているルルフ、ラースド、リアスに尋ねると彼らは旅の一部始終をセルウィンに説明したのだった。

 

 

一方のティラミスは、ベッドの上で一人天井を見上げてた。

モノネナに着くということは旅の終わりに近づくということ。

リアス達ともお別れであるのだ。

彼女の中に急速に虚無感が生まれ始めた。

(もしも・・・感応石を捨てたら・・・まだ一緒にいられるのかな)

ティラミスは感応石を握りしめる。

(何考えてるんだろ。みんな、ずっとこのためにがんばってくれたのに)

自分に思いきかすように固く目を閉じた。

そこで彼女は不思議な夢をみた。

自分を呼ぶ声。なんだか懐かしいような、そんな思い。

これは、夢なのだろうか・・・?