ええっと、とりあえず名前はティラミスで。

どこから来たのかは分からない。

気がついたらうちの倉庫で寝ていて。

故郷の情報は、ここよりも何もない暗い土地。



リアスは朝食をとったあと、そう整理した。

ティラミスは「はい」と頷いた。

あれからティラミスを家に連れてかえったときは、ひどく母親が驚いていた。

それもそうか。突然見ず知らずの女の子を連れてきて記憶喪失だというのだから。

妙ななりゆきだが、この子が怪しいものじゃないとわかったのか快く迎えてはくれたが。

「それなら、リングのギャムジーさんのところに行ってみたらどうかしら?」

リアスの横でティラミスの話を聞いていたエリーがそう言う。

「えぇ!?ギャムじぃのところ!?」

リアスが声を上げた。

ギャムジーとは、隣町リングに住んでいる自称町一番の物知りである。

リングはこの辺りで一番学問の発達したところだ。

ジャムジーも昔は学者であったらしい。

リアスも幼い頃からよくいろんな昔話などを聞かされてきた。

「そうだなぁ・・・。ここにいてもしょうがないし、リングに行ってみようか」

彼がそうティラミスに促すと、彼女は戸惑いがちに

「でも、いいの?」

と尋ねてきた。「お願い、連れて行って!」なんて言っていた威勢はどこへやら。

理性を取り戻してきたらしい。リアスとエリーの顔を遠慮がちに見た。

「いいよ。外はモンスターとかもいるし。危険だから」

「そうよ。まぁ頼りにはならないけど、いないよりはマシでしょう」

リアスとエリーの暖かい言葉にティラミスは嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます」






リングまでの道のりは決して遠いものではない。今から行けばお昼にはつくだろう。

平野にある道に沿って歩けば良い。

ただし、モンスターの縄張りを通ることもあるため安全な道とはいいがたい。

こちらが攻撃をしかけなければ、向こうから寄ってくることはまずないのだが。

リアスは身軽で動きやすい服装で、背中に銃剣を背負い、準備を整えた。

エリーに見送られ、軽い足取りでロスリート村を出発することとなった。



「あれ?リアス、どうしたんだ、女の子なんて連れちゃって」

ロスリート村を出るときに丁度リアスと同じくらいの年の少年が話しかけてきた。

「ちょっとこれからリングに行くものだから、護衛代わりにね」

リアスがそういうと、少年は楽しそうにニヤニヤと笑った。

「クリスが怒ってもしらねぇぞ〜」

「な!クリスは関係ないよ!」

冷やかす少年にうろたえつつ、リアスは「行くよ」とティラミスを促した。

二人のやりとりを不思議そうに見ていたティラミスは、その言葉にはっとなってリアスについて歩く。

「くりすって・・・?」

リアスの隣に並んで先ほどの話題を持ち出す。

「クリスは昔ロスリートに住んでいたんだけど、どこか遠くに引っ越しちゃったオレの友達だよ」

「ともだち・・・」

ティラミスはリアスの言葉を繰り返した。

その時

ずざっ

リアスが何かにつまずいた。間抜けにそのまま前に転げた。

「いって!!」

それは50cmくらいの硬い石のようなもの・・・。だが、妙なことにもぞもぞと動いている。

よく見れば、それが3つも。

「何だ、こいつら!?」

見たこともない、生き物。モンスターではなかった。

野犬のような、しかし皮膚はサイのような、独特な生き物。

その生き物を見た途端、ティラミスの瞳が見開かれた。

突如、ガタガタと震えだす。

「オオカミ型オートマター、リシアン001型」

不意に独り言のようにつぶやいた言葉。

「オートマター!?」

どうみてもこのなめらかな動きは本物のように見える。リアスは銃剣を取り出し、そいつを睨んだ。

なるほど、確かにオオカミの形に見えなくもない。

牙をむき出しにして、こちらに襲い掛かってくる1体をなぎ払うと「ガガッ」という機械音を発して弾け散った。

「リシアン001型は攻撃力も防御力もない試作品段階」

またティラミスが呟いた。

彼女の言葉どおり、他の2匹もリアスの銃剣の前にあっけなく倒れてしまった。

3体のリシアン001型は、黒ずんだ血にも似た液体を出している。

「ティラミス・・・どうしてそんなことを知ってるんだ・・・?このオートマターは一体・・・?」

リアスが不審そうにティラミスを見つめた。

「さぁ・・・」

ティラミスもまた不審そうに眉を寄せた。

「なぜでしょう」

そして首を傾げる。話す気がないのか、記憶がないのかは分からない。

ただし、これ以上きいても無駄だろう。

一刻も早くジャムじぃのところに急ぐことに決めた。



 あれから二人とも黙り続けている。

というのは、この時代オートマターなんてものがあんな高性能に動くとは考えられないからだ。

リングも学者の町であるが故、オートマターの研究もしているところがある。

だが、あくまでそれは研究段階。まだ完成してもいないし、動力さえも思案中である。

それなのにティラミスはあれを「試作品」だと言った。

なぜ、それをこの娘が知ってるのか・・・。

(まるでティラミスが作ったかのような・・・)

「リアス」

そう考え込んでいると、ティラミスの声が。

「ここがリング?」

はっと顔を上げれば、いつの間にかに二人の前には大きな町の門が聳えていた。

そこにはでかでかと「リング」と書かれている。

二人は門をくぐり、ロスリートよりも活気のあるリングの町へと入っていった。



 お店の前に売り出された色とりどりの野菜。おしゃれなカフェ。綺麗に舗装された道。

どれもティラミスにとってはめずらしいもののようで。

瞳を輝かせながら、楽しそうにあちこちを見回していた。

「すごい・・・」

そんな彼女をつれて、リアスは数件並ぶ家のうち黄色い屋根の家へ近づいていった。

これがギャムじぃの家である。

コンコン

リアスがドアを軽く叩く。だが、返答はない。

コンコンコンッ

今度は先ほどよりも強めに。やはり返答はない。

ドンドンドンッッ!!!

リアスは力の限りドアを叩き続けた。

「うるっさいわ、この馬鹿チンがぁ!!!」

バタンッ

ようやくドアが開いた。

中から現れた禿げた老人は、持っていた杖でリアスの頭を思い切りバコンっと叩いた。

「――――ッ!!!」

言葉にならない悲鳴。リアスは頭を押さえて、その場にしゃがみこんだ。

「いってぇ・・・!!!!」

彼の頭には、ひとつの大きなタンコブ。

「全く、そんなにノックせんでもきこえとるわ!」

年の割りに、老人はしゃっきりとしていた。杖はついているものの足腰はしっかりしている。

この人がギャムジー、いわゆるギャムじぃである。

「で、何の用じゃ」

リアスは涙目になりながら、ティラミスを前に差し出す。

「この子、迷子でさ。記憶喪失で故郷もわからないんだ」

「わしは迷子センターではないぞ」

ギャムじぃは不機嫌そうにティラミスとリアスを見た。

「あ、そうそう!来る時にオレ、オートマター見たんだよ!」

リアスはポン、と手を叩き興奮気味にギャムじぃに説明した。

「ティラミスの故郷には、オートマターがあったんだって!もしかしたらすごい発展したところなのかも!」

リアスの言葉に、ギャムじぃは興味をそそられたのか食いついてきた。

「何?オートマター・・・?!」

ギャムじぃは、ちらりとティラミスを見た後にこほんと咳払いをした。

「話を聞こう。入っとくれ」

こうして二人を家の中へ迎え入れた。