町を出てから、6人の前に立ちふさがったのは高い断崖絶壁。

10メートル弱はあろうという崖である。

どうしてこんなところにいるのかといえば、簡単だ。

本来ならは舗装された綺麗な道を歩くはずだったのだ。だが・・・

 

「うえ、なんだよ、これ!?」

道の途中でリアスが驚きの声をあげた。土砂が山のようになって、道を塞いでいたのだ。

「数日前に土砂崩れがあったんだ」

その場にいた工事の中年男性の一人が説明してくれた。

「これじゃあしばらくはここは通れないぞ。どうしても急ぎなら、崖を登るしかないだろうなぁ」

と、冗談めかして言ったのだが

「・・・崖か・・・」

セルウィンが真摯に受け止める。

「さっきの道で、登れそうな崖があったな。そこに行こう」

「まじかよ」

「まじでしょうね」

ラースドが顔をしかめると、ルルフが隣ではっきりと言い放った。

 

そうして今のこの状態にいるのだが、確かにごつごつした突出がところどころあり登れそうではある。

だがいざ真下から頂上を見上げるとその高さに圧巻されるのだ。

果てしない高さのように感じられる。

「私、これはちょっと・・・」

「さすがに、私も登るのは・・・」

クリスとルルフが一気に青ざめる。当然の反応だ。

「それならオレが先に登って上から引きあげてやるよ」

セルウィンはいとも簡単にそういうと、カゲツメを岩にひっかけるようにして器用に岩を登っていくではないか。

一体どんな偽トレジャーハンター時代を過ごしてきたのだろうか。

それを見たリアスとラースドも、慣れない手つきで岩を掴んで登りだす。

リアスはふと振り返り、自分の肩越しにティラミスを見る。

彼女は断崖絶壁を唖然と眺めているところだ。昨夜の様子がおかしかったが心配していたがいつもどおりのティラミスだ。

少し安心すると、リアスは改めて真上の岩に手を伸ばした。

見た目以上に登りやすいものだ。順調に安定して登っていく3人。

ルルフとクリスは下でその状況を見守っていたのだが、ティラミスも崖に足を引っかけ始めたのを見てぎょっとした。

「ティラミス、何してるの!?危ないわよ」

ルルフが急いで彼女を止めようと叫ぶが、ティラミスはマイペースに笑った。

「大丈夫。私重いから上から引きあげるの大変でしょう?」

ルルフの言葉に耳も傾けず、ティラミスは危なっかしく崖を登っていく。

「あぁ・・・ティラミスってば・・・!」

クリスがハラハラしてその様子をじっと見つめる。ガラ、と小さな石が上から崩れ落ちる度息を飲んだ。

「ティラミス!?何してんだよ!」

ルルフとクリスの騒ぎに気づいたリアスが、自分の数メートル下にティラミスがいることに気がついた。

ティラミスと視線が合う。

「平気平気!」

そういうティラミスをもはや下ろすわけにもいかず、とりあえずリアスは「注意して登って」と注意を促し頂上まで目指すしかなかった。

 

まず真っ先に登りきったセルウィンが、頂上で一息ついた。

いくらカゲツメを使って登ったといっても、霊体だと言っても体力は使ったのだろう。

崖の下を覗き込んで「おぉ」と悠長にその高さに感心していた。

そうしている間に、ラースドも頂上に這いあがってきた。

さすがに息があがっている。腕もさぞかし疲れただろう。ブンブンと軽く振るっている。

「ったく、もうこんなこと御免だな」

ラースドがぐったりとした顔で言った。その間にセルウィンは懐から長くて太いロープを取り出した。

それを下にいるルルフとクリスのために落としてやる。

「これにしっかりと体をくくりつけろ」

ルルフとクリスは、垂れ下ったロープに近づく。

「クリス、あなたからどうぞ」

ルルフが素早く言った。

「私が最後じゃないとスカートの中丸見えなのよ」

「いい歳して短いスカートなんてはいてるからでしょ」

クリスの辛辣な一言に、ルルフが眉を吊り上げて「無駄口叩くんじゃないわよ」と頭をはたく。

結構本気だったのか、クリスが痛そうだ。

そんなこんなで、クリスが自分の腰にロープをしっかりと括りつけた。

それを上にいるセルウィンとラースドに引き上げてもらう。

 

ようやくリアスも頂上にたどり着いた。

彼はすぐさま下にいるティラミスに手を差し伸べて上へ引き上げてやる。想定どおり、彼女の体重は重かったのだけども。

ティラミスも無事に上にたどり着くことができた。

「リアス、ありがとう」

ティラミスは地面に座り込み、疲れた体を休ませる。息もあがっていた。

そして今までのぼったこの崖を振りむいて圧倒された。

「見て!!」

ティラミスが、リアスに目の前に広がる大パノラマを指さした。

西に沈む夕日で空は橙色のグラデーションを織りなしており、それと同時に緑に色づいていた山々もオレンジ色に色づき輝いていた。

それは、まるで一枚の絵画のようだ。

ティラミスはそのあまりの美しさに、ほうっと溜息をつく。

「すごい。綺麗・・・」

そういうティラミスもオレンジ色に照らされている。

「リアスと一緒に旅に出てから、私はいろんな綺麗なものをみてきた・・・。この世界には、まだまだこんなに綺麗なものがたくさんあったんだね」

「オレもそう思うよ」

ティラミスを方を見、リアスが微笑む。するとティラミスも、はにかむように笑った。

「幸せそうね。お二人さん」

セルウィンとラースドの助けにより這い上るクリスは、もはや疲労で生気が抜けた顔をしていた。

「何よ、人が必死で登ってるのにいちゃついてさっ」

頬を膨らましながら、リアスに訴えかける。彼女もようやく安定した頂上にたどり着くことができた。

クリスは腰のロープをほどき、今度はルルフに投げてやった。

 ルルフも問題なく、頂上まで引き上げてもらったのだが、全員が登り切るのにはもうどっぷりと日が沈んでしまっていた。