「残念ながら、王様やシルフィール様と会うことはかないません」

屋敷の前で、2人の門番がぴしゃりと言い放つ。

白銀の兜を目深までかぶっており、顔はよく見えないが明らかに突然の訪問者であるリアスたちを怪しんでいた。

こんな攻防戦がさきほどから何十分と続いている。

「でも、オレ達の旅は不自然災害の真相を突き止める旅でもあるんだ!」

リアスがなんとか食い下がるが、そのあまりのしつこさに兵士のイライラもピークに達していた。

まとわりつく虫を見るような嫌悪の目を6人に向けている。

「くどいぞ。大体、おまえたちみたいな子供に一体何が・・・」

「ちょっと」

そこで現れたのはルルフ。

先ほどまでは一歩下がってリアスと兵士のやり取りをみていたのだが、ついに黙っていられなくなり棘のある口調で口を挟む。

「王様に告げて頂戴。ルルフォール・リアシャが会いに来たわってね」

彼女が鋭い目で、兵士たちを一睨みすると一瞬怯んだ兵士たち。口ごもったが、有無を言わさぬルルフの態度に

「・・・確認を取ってくる」

そのうち一人の兵士が、屋敷の門をくぐり敷地内を駈けていった。

 

その兵士が戻ってきたのはほんの数分後。息を切らせて、仁王立ちするルルフの前で頭を下げる。

「先ほどは失礼しました。どうぞ、お通りください」

門が、リアスたちのために開かれる。中で、待ち構えていた一人の若い女性の使用人が「どうぞ」と6人を案内する。

「すごーい。ルルフって何者!?」

敷地内を歩きながら、クリスが歓喜と驚きの声をあげた。

「言ったでしょう?ゼッケルハイス地方で黒の曼珠沙華の異名は覿面だって」

彼女はさらりと言った。

広い整備された中庭を渡る。噴水や、花園まで設けられていてもはや芸術の域である。

前を歩く使用人の案内がなければ、いまごろ迷っていたかもしれない。

女性が案内したのは、屋敷の中でもひときわ大きな離れの屋敷。

外装も内装もピカピカに整備されてい、ここに王族がいるんだろうなとすぐにわかった。

そして行き着いた先は、大広間。

上座に腰を下ろすのが、モノネナ王であるだろう。

真白な髪の毛。それと同じく白い胸まで伸びた髭。赤いローブに身を包む。

おそらく世界がこのような情勢のため、大した身なりをしているわけではないのだろうけどそれは王本来が持っている威勢なのかやはり別格のように感じられる。

 

「お久しぶりね、王様」

ルルフが王の前で、にっこりとほほ笑み、深く頭を下げた。

「おぉ、ルルフォールちゃんではないか!」

王がルルフの姿を見てはしゃぐ様子をみて、一行は唖然とした。

いい年をした王が「ルルフォールちゃん」だ。

ルルフの態度にも驚きだが、王にもまた絶句である。二人の関係性が気になるところだが。

「おそらくシルフィールさんと、鉱物研究所の責任者から詳しい話は聞いていると思うのですが・・・」

セルウィンが後ろ側から、王に物申す。すると、あぁとうなずく王様。

「不自然災害について、調べてくれている若者たち。リアス・アルストラ。ラースド・フォルツォーネ。ティラミス。君たちの話は聞いておるよ。十分信頼に値する人物だということも」

「それなら話は早いですね」

ルルフが単刀直入に切り出した。

「私たちは、その不自然災害の原因がアロンズの研究所にあると考えているのです。そこに、エネルギーを生む何かが存在する。波長を調べても、そういう結果に行きつきます。ですが、そこへいくために足がありません。どうか、私たちに力を貸してくれませんか?」

躊躇することもなく言い終えたルルフォール。

「ふぅむ・・・。確かに・・・」

王は、ルルフ、ラースド、セルウィン、クリス、ティラミス、リアスの順番にそれぞれの顔を眺めていく。

そのときだ。

「皆さん、こんにちは」

広間の入口から美しい声がした。忘れることもないこの声。

「シルフィール!」

ティラミスが嬉々とした声をあげた。久々の再会だ。

「お久しぶりです。元気そうで何よりです」

シルフィールが、優雅な足取りでリアスたちのもとに近づく。身につけている洋服は以前見かけた神官のものではなく、真白い足首まであるシンプルなドレスだった。

装飾品は身につけていないのだが、それだけで十分彼女に似合っている。

「こちらにいらっしゃるときいて私も急いで参りました」

稽古事があるのですぐ退出しないといけないですが、と付け加える。忙しい中わざわざ会いに来てくれたんだろう。

「ちょうどよかった。シルフィール。世界を自分で見てきたお前は、今の状況をどう思う」

王の凛とした声が、シルフィールに向けられる。突然の話の振りに、一瞬きょとんとした彼女であるが流れを理解したのだろう。すぐさま返事を返す。

「今、世界は義父上が思ってらっしゃる以上に深刻です。私も彼らと大した付き合いはないのですが、とても純粋な目をした者たちです。きっと、彼らなら・・・」

シルフィールが微笑んだ。それから先は言わずとも、王に真意は伝わったのだろう。

王は満足げに頷いた。

 

 

「それにしても、ルルフ、どうしてあんなに王様と仲がいいの?」

当然の質問を、ティラミスが尋ねた。

屋敷から下がり、ゼッケルハイスの街を歩いている途中に。

「あら、だって私の黒の曼珠沙華の称号を与えてくださったのは王様だもの」

ルルフは、くすりと笑った。

「毎年ゼッケルハイスで行われる魔術大会で、5年連続優勝を果たした私に直々にね」

「魔術大会に5年連続?」

と、リアス。そんな大会自体、彼の脳内にはなかったらしい。首をかしげて尋ねた。すると隣を歩くクリスから声が上がった。

「ゼッケルハイスの!?あの超有名な大会じゃん!!」

クリスが興奮気味にルルフを見上げると、彼女は得意気に「まぁね」と返す。

毎年、冬のゼッケルハイスで行われる全国から魔術師を募った魔術大会。そこで、己らの魔術力や研究成果を披露するために開催されている。当然、優勝者には賞金も出る。そのため世界屈指の兵達が集まる大会である。

ルルフがあの山小屋で何の仕事にもつかずに、一人研究に打ち込むことができたのは5年連続で獲得した賞金があったためであろう。

それからようやくそれがすごいことだとわかったらしい、リアスは「ルルフってそんなすごい人だったんだ!」と驚く。

「…お前ら、マジで知らなかったのかよ」

ラースドが呆れ気味につぶやく。

「あれほど有名な話なのにね」

それに同意するのはセルウィン。

5年前といえばルルフはまだ19歳。若いながらにもかなりの魔力を誇る術師だったことは容易に想像がつく。

「それにしても、船がとれてよかったわね」

と、話を元に戻したのはルルフ。王様から了承を得て、国の船を使うことが許された。

とはいっても、待遇の良い船ではないだろうが。この際ヨットだろうが、ボートだろうが西の孤島まで無事にたどり着けるのならば何でもよい。

「明日港に用意してくれるって言ってたな。それまでは十分に休んで体力つけとこうぜ」

きっと穏やかでいられるのも今日までだろ、とラースドが低い声で言う。西の孤島へ向かったら何が起こるかはわからないのだから。

「じゃあ、今日はもう宿屋へ向かおうよ」

自覚があるのか、ないのかまったく緊張感を感じさせないリアスの声。

まったく、と肩をすくめて笑ったのはルルフ、ラースド、セルウィンの大人組。

まだ日は暮れてもいないが、リアスたちはゼッケルハイスの港のそばにある宿屋に泊ることにした。