記憶がないこと。

自分がいたと思われる場所のこと。

気がついたらリアスの家の倉庫にいたこと。

ティラミスは出来る範囲のこと全てをギャムじぃに話した。

「して、オートマターのことは?お前の故郷にあったのか?」

ギャムじぃの真剣な声。ティラミスは数秒考え込んで

「はい。たくさんあったように思います」

と答えた。ギャムじぃは禿げた頭を掻きながら唸り声を上げた。

「うーむ。そんな大量生産できるほどの知識と技術と経済力をもった都市なのか・・・」

それなら、ロスティ、ハルメール、モノネナ・・・といくつかの都市の名前を挙げて行く。

「だが、いずれの都市もオートマターを完成させたという報告はないけどの。

もしかしたら、リストーの町なら何かわかるかもしれん」

「リストー?」

リアスは不満そうな声をあげる。リストーは、先ほどの知識、技術、経済、どれも当てはまるような町ではないからだ。

それなのになぜリストーなのか。

「リストーには、初めてオートマターの研究に成功したアロンズが住んでいたところだ」

そんなリアスにギャムじぃが説明した。

アロンズとは、最初にオートマターの研究をはじめた人物で理論的に可能であると初めて証明した人である。

それから飛躍的にオートマターの研究が進んだといっても良い。

「アロンズ自身はもう50年も前に死んでおるが、きっと彼の意思を継いでオートマターの研究も進んでいるだろう」

「そうか・・・。リストーってどこにあるんだ?」

リアスの質問に、ギャムじぃは杖でティラミスの横にある本棚を指した。

「お嬢さん、申し訳ないがそこにある地図をとってもらっていいかな」

本棚にティラミスが近寄る。たくさんの本が並んでいる中に折りたたまれた地図が挟まっている。

ティラミスはそれを引き抜こうとしたが。

バサバサッ

「ひゃ!?」

ぎゅうぎゅうに詰められた本と本の間にある地図を力いっぱい引き抜く表紙に、本棚の上に積み重ねられていた大量の本がティラミスの頭上から降り注いだ。

ティラミスは本の下敷き。あたりは埃が舞っている。

「ぬぉっ、ワシの本がぁ!!」

「ティラミス、大丈夫?!」

本の心配をするギャムじぃがいる一方リアスは急いで本を掻き分けて、今にも死にそうなティラミスを助け出した。

「ごほっ・・・ありがとう・・・。って、あれ?」

ティラミスが自分の胸元を見て、真っ青になった。

「感応石がない!」

ティラミスは慌てて本の山から「感応石」を探し出す。必死な様子から、大事なものであるらしい。

それからすぐに、彼女は本の下から青く光るペンダントを手にした。

思い起こせば彼女がいつも身に着けているペンダントだった。

ティラミスは安堵のため息をついて、それを大切そうに首から提げた。

彼女の左手にはしっかりと目的の地図が握られている。

本を積み重ね直しているギャムじぃにそれを手渡した。



 ギャムじぃの説明によると、ここから北西に向ったところ。

そこにリストーの町がある。少し入り組んだ道のりであるから迷わずに行くようにとのことであった。

ギャムじぃの家を出るときに、リアスはギャムじぃに託をした。

「ねぇ、ギャムじぃ。オレはこの子を故郷までちゃんと送ってからいくよ。母さんにそう伝えておいてくれる?」

それはエリーに対するものであった。

「それは構わんが・・・」

ギャムじぃは、リアスとティラミスを交互に見た。

「当てのない旅同然じゃ。気をつけてお行き」

こうして次の目的地はリストーだと決まった。ティラミスの故郷だという信憑性は薄いが、手当たり次第に探すよりはマシだろう。

二人はリングを出発した。



「リアス・・・ごめんなさい。こんなことに巻き込んで」

ティラミスは申し訳なさそうに頭を垂れた。

「別にいいよ。オレが自分でついて行くって言ったんだし。オレもオートマターのこと気になるしさ」

 恐らくオートマターが現れたのはつい最近だろう。それがこんなに大量生産されていたら誰でも気になるものじゃないか。

母親を一人残しておくのは心苦しいけれど、きっとすぐに帰れるだろう。

リアスはそんな気楽な気持ちであった。

それをきいたティラミスは、頭をあげてようやく笑ってくれた。

 ところでリアスもロスリート村の周辺やリングですべての用事を済ますことが出来たのでリストーまで行ったことはなかった。

地図を頼りに進むしかない。

リストーまでは遠そうだ。途中、林も抜けなければならない。





 途中にあった小さな村で一晩を過ごし、どれくらい進んだだろうか。

彼らの周りには木。木。木。同じような木が立ち並んだ場所にたどりついた。

心なしか薄暗く感じる。

恐らく、ここがリストーの途中に地図に描かれていた林。

そしてギャムじぃが入り組んだ道があるといっていた場所だろう。道は一応人の手によってつくられているが

長らく整備されていないのか、草が茂りもうかろうじて見える程度。もう目印にもならない。

「ここを進むの?」

ティラミスが不安げにリアスに尋ねると

「オレが案内してやろうか?」

不意にどこからか声がした。

その方向を見てみると、一本の木の影から現れた一人の男性。

黒髪を縛り、鋭い眼光。右手に持つのは一本の槍。まだ若いが冒険者だろうか。

「えーと、あんたは?」

リアスがきくと

「ここは道が複雑でよく迷う奴がいるんだ。オレが案内してやるよ。・・・700ゴールドでな」

その男はにやりと唇を上げた。

「700ゴールド!?」

驚きの声を上げるのはリアス。700ゴールドといえば、2人が2日間宿屋に宿泊できるほどの値段だ。

たかが案内にその金額は高い。彼は唸り声を上げた。

「・・・自分達で進んでみるよ」

「あっそ。まぁ、せいぜいがんばるんだな」

男性は意外にもあっさりと引き下がり、ひらひらと左手を振って立ち去ってしまった。

その姿は木々の中へ消えて行く。よくもこんな林の中、そんな余裕しゃくしゃくに歩けるものだ。

リアスとティラミスはお互いに妙な人だったね、と顔を見合わせた。

ただここで突っ立っている場合ではない。二人も先に進んだ。