5人がたどり着いたのは、またあの研究所。
アロンズのこと、次元の歪みのこと、ティラミスのこと、セルウィンのこと・・・すべて夢なのではないか。そう思えた。
いや、そう思いたかった。
だけど、ここにセルウィンの姿はなく、眠るティラミスの首にも感応石がない。
皆の傷だらけの体が語る。夢ではなかったのだと。
リアスは自分の右手にある銃剣をぎゅっと強く握り締めた。いつもよりも重く感じられる。
一人、あの空間に残ったセルウィン、その思い・・・リアスは唇をかみしめた。
だからこそ、この世界に何も影響がなかったことに喜ぶべきなのかもしれない―――。
* * *
「セルウィン・・・。こんな急な別れなんて・・・っ」
クリスが首を垂れた。霊体でであったけど、大切な仲間だった。
いつかは別れがくると頭の片隅にはあったのだろうが、あまりに突然すぎる別れは悲しみを通り越えて衝撃を与えた。
また「なにぼやっとしてるんだ」とかいいながら、ひょっこり顔を見せにきそうなのに。
皆がしんと静まり返った。
こうして世界の破壊をとめることができたのも、ティラミスがここにいることも彼のおかげである。感謝の気持ちすら、他の皆は伝えれていないというのに・・・。
「アロンズのことも・・・少し同情しちゃうわ」
ルルフがぽつりと言った。
「ただの世界征服を望む悪党・・・そう思ってたのに・・・」
考え方は間違っているとは思うけど、痛いほど彼の思いは伝わってきた。
「でも、だからってすべてを壊して言い訳じゃないんだ・・・。絶対・・・」
人々に分かって貰う方法は、別にある。リアスはそう言った。
その時、ラースドの傍で横たわっていた少女の瞼がぴくりと動いた。
「・・・う、う・・・」
重たそうに、体を起こす。皆がティラミスに注目した。
朦朧とした目が徐々に覚醒していく。
「みんな・・・私・・・」
「おい、俺達が分かるか?」
ラースドが目の前で手をひらひらさせると、ティラミスは一瞬きょとんとする。
もしかしてまた次元を超える際に、何か損傷でもあったんじゃ。それか起動力の転換がうまくいってないんじゃ・・・。皆に不安がよぎる。
だが、次の瞬間には彼女はにこりと微笑んだ。
「もちろん」
みんなの不安が安堵に変わった。
「ひやひやさせないでよー」
と、クリス。
「まさかどさくさに紛れて、あんな思いのたけを告白されるとは思わなかったけどな」
ラースドはリアスを小突いた。苦笑するリアス。
リアスと、ティラミスの視線がかみ合った。
「ありがとう、リア・・・」
彼女の礼が言い終わる前に、言葉は途切れた。リアスが彼女の体を引き寄せたのだ。
「よかった・・・」
あの苦しい決断の最中での恐怖・・・。それを打ち消すかのようにリアスはその腕に強く力を込めた。
それを横目で、やれやれと呆れるのは残りの3人。見てられるか、とラースドが水を差す。
「さて、惚気るのも大概にしてそろそろここから出発しようぜ。久々に新鮮な空気を吸いたいしな」
ありがとう、リアス。
自分を見失っていたアロンズも、きっとあなたに救われたと信じたい。
これはTIRAMISUじゃない、ティラミスとして。
あの人が、撃たれるのをよしとしたのはきっとあなただから。