ティラミスも部屋に来て貰い、3人はベッドに腰掛けて正面のイスに座るメリックの話をきく。
彼は感応石を目の高さまで持ち上げて語りだした。
「あれからすぐ調査をさせてもらってね。まず成分から話そう」
3人は緊張した面持ちで言葉を待つ。
「成分は、正直なところわからなかった」
拍子抜けだ。リアスとティラミスは苦笑し、ラースドは舌打ちした。
メリックは軽く咳払いをして話を続ける。
「残念ながら、この辺りにはない物質だった。解析ができずにエラーが出たんだ。
だが、ひとつわかったことがある」
彼はひどく真剣な顔をした。
「この大陸を今賑わせてる事件があるんだがご存知かな?」
「事件?」
リアスがぽかんとして尋ね返す。リアスとティラミスは首をかしげた。
「・・・巨大都市を襲った自然災害。竜巻の発生、嵐の襲来だろ?」
ラースドが言う。
「都市たちが自然災害によって、次々と破壊されていったやつだ。今のところそれで2つが崩壊状態だ」
「そう!」
メリックが興奮気味に声を上げた。
「それだよ。それは一般的には自然災害といわれてるが、研究者達の間では不自然災害だと考えられている。
以前の気候や気温、風向その他の条件を調べてもこんなに災害が重なるのはおかしい。
そして何よりも、そういった災害の前兆にはある一定の波長が計測されるんだ」
早口ぎみに説明され、リアスはただ黙って聞いてることしかできなかった。
メリックの熱弁は最高潮に達していた。
「その波長と、この感応石から放たれる波長が、一致した」
彼の手の中にある感応石が光を反射してキラリと光る。
一同が唖然として感応石とメリックを交互に見つめた。
「じゃあ・・・その災害はその感応石が引き起こしてるっていうのか!?」
メリックの言いたいことを理解したリアスは驚嘆して立ち上がり、メリックに詰め寄る。
一方のメリックは至って冷静であった。
「いや。きっとこんな小さい石ではそんなことは不可能だ。きっとティラミスさんの故郷にもっと大きい波動を生む何かがあるはずだ」
「波動を生む・・・何か・・・」
ティラミスはメリックから感応石を返してもらい、両手で握り締めた。
思い出そうとがんばっているのだが、どうやら無理らしい。瞳を伏せた。
「そこで君たちにお願いがある」
メリックは、まっすぐにリアスを見つめた。
「この原因をつきとめて、災害を止めてほしい」
予想に反したメリックの一言に、リアスは固まった。そして戸惑っている。うまく言葉が出てこないようだ。
メリックの目は本気だった。
「災害を止めるって・・・オレたちにそんなことが・・・」
「それを依頼として受け取った場合の報酬は?」
ラースドがここぞとばかりに目聡くメリックに商売を持ちかけた。
しかしメリックはというと、ひとつも動揺することなくきっぱりと答えた。
「報酬は君たち自身の命というのはどうかな?」
3人の表情が凍りつく。
「きっとこのままこの事件が続けば世界全体が崩壊するだろう。もちろん君達もここで食い止めなければ死ぬことになる」
重苦しい空気が部屋に流れた。
返す言葉が見つからない。というよりも、あまりにも大きくて重たい話を持ちかけられて実感すら湧いていなかった。
リアスやティラミスは災害を実際に目で見ていないということもあるのだろうが・・・。
数分間の沈黙のあと、口を開いたのはラースドだった。
「そんな報酬じゃあ足りないな。世界人口を救うとなると・・・今世界の人口を約40億人と考え、一人100Gの報酬とすると・・・」
ラースドが一人勝手に話を進めて計算をし始めた。
「そうだな、4000億G。これが報酬だ」
当然の如く言い放つラースド。これにはメリックだけでなく、リアスとティラミスも呆然だった。
どうだ、と不敵に笑うラースドに考え込むメリック。こんな一、研究者にそんな大金が払えるわけがないと一目瞭然だ。だが、
「・・・それで世界が助かるなら、調達できるようにがんばろう。地方や国にも呼びかけてみよう」
なんと、できるかぎり前向きな答えではないか。
「その代わり、君達も全力をつくしてほしい」
それだけ言うと、彼は荷物をまとめて立ち上がった。
「私の言いたいことはこれが全部だ。夜分にすまなかったな」
スタスタとドアの方向へ歩いていく。ガチャリ、とドアを半分くらい開けたところで彼が再び振り返った。
「そうだ。もしも君達の旅に役立つなら―――・・・」
「ったくもー、どこなんだよ。そのお偉い魔術師さんは」
リアスは力なく歩きながら、急な山道を登っていく。
ラースドの機嫌もよろしくない。というのもかれこれ2時間はさまよっているのである。
この空気にそぐわぬさわやかな風と眩しい太陽が憎たらしい。
昨夜、メリックが最後に言い残した言葉。
―――もしも君達の旅に役立つなら魔術師を連れて行くといい。イブストリームを出てすぐ東の小高い丘に有名な魔術師が住んでいるから―――
どこが小高い丘だ。どう見ても険しい山じゃないか、とリアスが口を尖らせるのをティラミスが「まぁまぁ」と軽くなだめる。
「ところでラースド、どうして昨日あんなことを言ったの?」
ティラミスがラースドに訊いたのは、昨夜メリックに持ちかけたあの明らかに不可能な交渉である。
「自分達の命が助かるなら、報酬なんて十分じゃ・・・?」
ラースドはあぁ、と今まで忘れていたのか気の抜けた返事だった。
「別にオレも本気で4000億Gがほしいなんて思ってねぇよ」
まぁ欲しいけどな、と密かに呟いたことは放っておこう。
「ただ、どこまであの研究者が本気だったかを調べたかったんだよ。オレだってお人好しじゃねぇ。ガセかもしれない予測話になんか
易々と付き合えるわけないだろ?ただ4000億Gも調達しようってんなら奴だって生半可な覚悟じゃないってことさ」
「・・・ラースドって・・・ちゃんと考えてたんだな・・・」
ただただお金儲けのことしか考えてないのかと思ってた、とリアスは貶しているのか感心しているのか。
「でも波動とか波長とかってオレさっぱりだよ。その壊された都市っていうのに行けば何かわかるのかなー?」
「その都市ってどこなの?」
と、ティラミス。
「確か・・・ギルバースとロスティってところだ。まぁ、ここならならギルバースが一番近いし、まずそこに行くしかないんじゃないのか」
それに答えるラースド。
と、その時3人の前に一見の小さな家が。
「あ、もしかしてあそこが例の魔術師の家かな!」
さっきまでの疲れはどこへやら。リアスの顔が明るくなった。
コンコン。
木のドアを軽くノックする。
返事がない。
「留守なのかな?」
リアスがなんとなしにドアノブを回すと、なんとドアは易々と開いてしまった。
軽く押したつもりなのだが、ドアのたてつけが緩いのか勢いよく押し開かれた。
ゴンッ
何かにぶつかり、鈍い音が。
リアスがあ、という前に家の中から耳が痛くなるほどの怒声が上がった。
「いったいわね!!!一体誰よ!?」
その家から姿を出したのは、まだ若い女性であった。20代前半くらいであろうか。
肌を必要以上に露出した服に身を纏い、そこからすらりと出た白い左腕と左足には紋様が刻まれている。
一見息を飲むくらいな美人なのだが、その顔は不機嫌さで歪んでいた。
ジロジロと不躾に3人を見定めている。
どこか恐い雰囲気をもった女性だ。
リアスはドアを激突させてしまったことに急いで侘びをいれた。
「あの、す、すみません!!」
それに女性の気は少しは収まったのだろう、口を開いた。
「・・・見たことない顔ね。なんの用かしら?」
「この辺りで魔術師の方がいるときいて探してるんですが」
リアスがそう言うと、女性は
「私が魔術師、ルルフォール・リアシャよ」
ぴしゃりと言い放った。
この人こそがリアスたちが探していた魔術師であったのだ。
やったぁ、とリアスとティラミスの顔に笑みが浮かんだ一方でラースドは目を丸くした。
「ルルフォール・リアシャ?!あの有名な天才魔術師か?」
通称黒の曼珠沙華と呼ばれる腕利きの魔術師である。この辺りでは、名を知らぬ者がいないほど。
ラースドの驚きように、ルルフォールは得意げな顔をしていた。
だが、彼女を知らないものが約2名。ほぉーっと感嘆の声を上げた。
「で?まさか私のサインをもらいに来たわけでもないんでしょう?何のよう?」
ルルフォールがちらりとリアスを見ると、彼は今までの経緯を話し始めた。