「で?」
一通り説明したあと、ルルフォールは挑戦的にリアスに言葉を投げかけた。
その態度にリアスも言葉に詰まる。
「ルルフォールさんの魔術を私たちに貸してもらえませんか?」
ティラミスが恐る恐るルルフォールに様子を伺うと彼女の顔は明らかに曇る。
「私の?あなた達、一体何様のつもり?」
仏頂面で言い返す。彼女こそ何様のつもりだろうか。全く協調性の欠片もない。
「あなた達に協力してなんの得があるというのよ」
「でも、世界が滅んじゃうとあなたも死んじゃうんですよ?」
リアスが必死に説得するが
「その時はその時よ」
と一蹴した。
「用はそれだけ?私は魔術師で、別に世界の勇者でもなんでもないわ。他を探すのね」
ルルフォールは冷淡に言い捨てると、ドアの奥に引っ込もうとする。
だが、目の前の少年の様子が今さっきとは異なるのに気づき足を止めた。
へらへらしてたリアスの顔は、真剣になり右手には銃剣の柄が握られていた。
彼が神経を配らせているのは背後。
そこでようやくルルフォールも気がついた。草むらから4人に向って殺気だってくるものに。
キィンッ
リアスの刃と『それ』がぶつかり、金属音をたてる。
その正体は直径50cmはあるであろう大蛇であった。
リアスの銃剣とその大蛇の牙がぎしぎしと音を立てて交わっていた。牙からはどろりとした唾液が流れ落ちる。
口を広げるその姿は、きっと人一人を丸呑みできてしまうだろう。
既に槍を構えていたラースドは槍先で喉元をつく。
分厚い皮膚のためか突き刺さりはしなかったものの、驚いた大蛇は頭を引っ込めて距離をとった。
「・・・最近はこうゆうみたこともないモンスターが増えていて困るわ」
ルルフォールがため息をつく。こんな化け物を前にしても慌てもしないということは戦いには慣れているようだ。
すっと、長い杖を敵に傾ける。
「こいつはモンスターじゃないです。・・・ヘビ型オートマター、リリムクロス005型」
いつもの調子でティラミスが言う。ルルフォールは「こいつがオートマター?」と驚いたがそれも一瞬だった。
リリムクロスが再び大口をあけてこちらに這い寄ってきたのだ。
ラースドがまた槍を、今度は奴の目を目掛けて突き出した。
直撃したリリムクロスは体をくねらせて奇声を上げながらもがく。
「やった!」
リアスが思わずガッツポーズをした。ところが・・・
のた打ち回るリリムクロスが徐々に和らいできた。見ると、突き刺された目がいつの間にか元に戻っている。
「自己再生・・・!?そんな・・・まさか・・・」
ティラミスが愕然とした。いや、もちろんラースドやリアス、ルルフォールも驚いているのだが特にティラミスは驚いている。
まるでティラミスの治癒能力のように、完璧にもとの姿に戻ってしまった。
「・・・リリムクロスはきっと・・・一撃で粉砕しないと破壊できません・・・」
いつも断言するほど自信をもった答えを返すティラミスだが、今回は弱い声色だった。
「一撃って言っても・・・!!」
リアスとリリムクロスの牙が激しくぶつかり合い、交差する。一瞬の隙も許さないこの状況でどうやってこいつを粉々にできようか?
「サンダーストーム!!」
突如、リリムクロスの頭上に眩い稲光が起こった。直撃したリリムクロスは悲鳴を上げながらのた打ち回る。
何が起きたのか分からなかったリアスだが、ルルフォールが杖をリリムクロスに傾けているのに気づき彼女の魔法だと理解した。
「ありがとう、ルルフォールさん」
「べつに礼には及ばないわ。ところで一撃で仕留めないといけないのよね?私の魔法ならそれが可能だから、あなた達その間にあいつを引きつけてちょうだい!」
ルルフォールは二人の答えを聞く前にもう呪文を唱え始めていた。
「ったく、せっかちな女だ」
ラースドは苦笑して槍を構えて、リリムクロスの頭に飛び掛っていった。
リアスも、ルルフォールを叩きつけようとする奴の尻尾を切り裂く。
相手の固い皮膚を相手に必死の攻防戦が続く。
どれくらい経ったのだろうか―――恐らく数秒だろうが―――呪文を唱えていたルルフォールが杖を空に振り上げた。
「サイクロン!!」
彼女の叫び声と共に現れたのは巨大な竜巻。そう、リリムクロスの周りを取り囲むように。
激烈な疾風の刃の前にリリムクロスは抗う術もなく、その体は切り刻まれていった。
サイクロンが消えた時には、そこには塵と化したリリムクロスの姿。
「・・・おわった・・・」
リアスが盛大に息をついた。安堵の息だ。
「・・・ったく、魔術ってのはとんでもないな。人間に使ったら一瞬でお陀仏だぜ」
その魔力の大きさに圧倒されたラースドの笑顔は引きつっていた。何せあれだけ強固だった敵が木っ端微塵なのだ。
「まぁ、私にかかればこんなものよ」となんなく言ってみせるルルフォール。やはり、天才魔術師と呼ばれるだけの腕前を兼ね備えた人物なのだろう。
唖然としていたラースドの元にティラミスが駆け寄ってきた。
「ラースド、腕怪我してるよ」
彼女の言うとおり、彼の腕はいつの間にかに擦り傷が出来ていて血が滲んでいた。
「本当だ。気づかなかったな。こんなんすぐ治るから別に大丈夫だ」
「ダメだよ。もしも毒が入ってたりしたらどうするの」
ティラミスはラースドの腕に両手を翳した。
「ヒール」
ふわりと優しい光が彼の腕を包み込むと、例の如く跡形もなく消えてしまった。
それをみたルルフォールは目を点にした。
「今・・・のって治癒術・・・?」
ルルフォールはラースドの腕とティラミスの顔を見比べながら驚きなのか、疑いなのか、そんな声で尋ねた。
「はい」
ティラミスがきょとんとして答えると、彼女はますます目を見開いた。
「この世界に治癒術が存在するというの!?あなた、一体どこでそれを!?」
ルルフォールは脅迫するが如くティラミスに詰め寄ると、さすがのティラミスも驚き言葉を詰まらせた。
「ええ・・・っと・・・」
「ちょ、お前落ち着けよ・・・」
ラースドが二人の間に割ってはいった時だった。
彼らの後ろのほうで、ドサという音がした。
リアスが地面に倒れこんでいた。
「リアス!」
「おい、大丈夫か?!」
ティラミスとラースドが慌てて駆け寄る。さきほどの毒が体にでも回ったのだろうか?そう思ってた彼らだがリアスの苦しみ方は毒ではなかった。
以前ヤグラーとの戦いでの苦しみ方に似ていた。顔を歪めて、既に立つこともできないらしい。息も上がっていた。
「うちのベッドを貸すわ。彼をこっちに運んで」
ルルフォールがそういうと、すぐラースドはリアスを負ぶって彼女の家の中まで運んだ。