神々の支配者




「アルミオン、分かってると思うが二手に別れるぞ」

リコリスを含めた一行は、のんびりしている暇はない。

闇の力が日々溜まっていくのに、リコリスに月日をかけるわけにはいかない。

「私がシオンといく。お前とリコリスはアルモンゴラにいってくれればいい。それだけだ。」

フィーナが反論させる余地なく、言い切った。まぁ、反論なんてないのだが。

「うん、僕がリコリスちゃんとだね」

アルミオンの「リコリスちゃん」発言にリコリスは恥ずかしそうに口を出す。

「あの・・・。「ちゃん」付けはちょっと・・・。私、こう見えても17歳ですし」

「17歳!?」

しかしそれに驚いたのは、アルミオンではない。シオンだ。

「うそ・・・!?俺より年上なの!?」

身長、顔、どこをとっても12、3歳くらいの少女だ。目を丸くして、リコリスを凝視する。

「シオンさん、言葉には気をつけなよ」呆れるアルミオン。

「だって、アルミオン、驚かないのか!?」

「見かけだけがすべてじゃないよ」

「あはは・・・」

未だに信じられないが、落ち着いた性格こそはリコリスが年上だと物語らせるものだった。

こんなことがありながら、シオンたちは二手に別れた。







ゆっくりと山道を歩きながら、リコリスとのんびりとした会話をしていく。

どうやら自分達にお願いをしてきたわけは海を越えないといけないから。あっという間の空旅をしたあと、今のこの山道に至る。

それにしてもリコリスはシオンほどの驚きをみせなかったわけであるが・・・。



「アルモンゴラはどこにいるんだっけ?」

「神々の聖地です」

「“神々の”聖地ね」

『本物の』神を知るアルミオンは肩をすくめて苦笑した。それに気づかずリコリスは真剣に話を続けていた。

「やっぱり、強いんでしょうね。モンスターの神と名づけられたモンスターなんですよ」

「へぇ・・・。モンスターの神ねぇ」

こんなゆったりした話を繰り広げていく。

「すべてのモンスターズトレーヤーはそこで、資格を認めてモンスターを召喚できるようになるんです。

私の両親だって・・・」

「リコリスの・・・両親?」

リコリスの両親もモンスターズトレーヤーなんだろうか。だが、リコリスの表情は次第に重くなっていった。

「はい、モンスターズトレーヤーでした。あ、あれが神々の聖地ですかね!?」

ずっと上へ向かっていた山道が広くなっていく。そこに、岩でできたような砦なようなものが見える。

神々の聖地にしては少し乏しい感じもするが、そこから突き出した角の岩がそうは思わせない。

「きっとそうだね。行ってみよう」

アルミオンはリコリスを連れて、その砦らしきものに近づいていく。だが、入り口らしきものは

近くにきても見つからなかった。

「どこから入るんだろうね・・・」

ぐるりと岩の周りを巡ってみたのだが・・・。

しかしリコリスは焦るような素振りもみせず、角のような岩の真下へ。

封印紙と同じく腰につけている杖のようなもので、その岩を数回小突いていた。

「リコリス、それは何?」

彼女の持つ杖。一見すると、ただの木の棒に見える。そんなものを何に使うんだろうか、と

アルミオンが不審に思うのも無理はない。

「これはですねモンスターズトレーンの封印を解くための杖なんですよ」

作業を止めずに、はっきりと答えた。

そんなものでモンスターを召喚できるのか、なんていえない。

と、そのとき。



ギギィ・・・・



彼女が小突いていた岩のひとつが音を出して開いた。どうやらこれも隠し扉、というものらしい。

「昔、母に教えられたんです・・・」

「そうなんだ・・・」

親のことを話すリコリスはどこか寂しそうな気がする。深くは聞いてはいけないような気がした。

「それじゃあ行こうか。ここまで来て、後戻りはできないしね」

アルミオンがにっこりと笑い、リコリスが「はい」とうなずく。

二人は砦の中に姿を消していった。





砦の中は、岩がごつごつしているわけではなかった。

ちゃんと通れるような道に加工してある。

ご丁寧なことに、ところどころ松明までたててある。自分たちを歓迎でもしているように。

外からみれば、とてつもなく狭い砦に見えたのだが道は奥に下に深く続いていた。

中にも、あの杖を使ってしか通れない仕掛けが多数存在している。ここはモンスターズトレーヤーになるものしか受け付けないところなのだろう。

「大分歩いてきましたから・・・そろそろだと思うんですけど・・・」

「そうだね。・・・!?」

突然、バッとアルミオンが後方を振り返る。鋭い目で後方を探るように見ていた。

「ど、どうかしましたか?」

リコリスもアルミオンにならって後ろを振り返る。土色の道が長々と続き、松明が赤々と照っているだけ。

特に変わったことがあるようには思えないが・・・。

「いや・・・。なんでもないよ・・・。それより先を急ごう」

またアルミオンの顔つきは優しいものとなり、リコリスにそう促した。



あれから少しもしないうち、他とは明らかに違う扉の前に着いた。

岩でできた扉。だが細かく細工され、繊細な模様が施されている。

それもモンスターズトレーン用の杖で開錠された。

ゴゴゴ・・・

砂煙とともに横にスライドする。

明らかになった扉の先に広がったものは・・・。

「わ・・・」

リコリスの小さな声ですら響く。青空まで筒抜けとなった天井。

そして、人間の神殿にまけないくらいの広間。光と風が心地よいぐらいにさしこみ、吹き抜ける。

何よりも、その中心にいる数メートルのモンスターを守るように囲んでいるモンスターたち。



『誰だ・・・。我が眠りを妨げるものは・・・』



数メートルもあるモンスターの頭がリコリスとアルミオンに向く。

堅そうな皮膚、ぎろりとした瞳、鋭い手足、全身にまとうオーラ。すべてが他のモンスターと別格だった。

睨まれる、それだけでリコリスの体に緊張が走る。それだけの威厳を兼ね備えたモンスターの神。

「あなたが・・・アルゴンモラですか?」

やっとの思いで絞りだした声はちょっと小さめ。

『いかにも。貴様はモンスターズトレーヤーになることを欲する者か・・・?』

重たい声が、一言一言のしかかるようだ。

『なぜに我が仲間を道連れにする・・・』

「この力が・・・親の形見だから」

今度ははっきりした声で言い返すリコリス。周りのモンスターがぴくりと反応した。

「私の両親はモンスターズトレーヤーでした。モンスターと心を通わせて、共存していた者です。

両親は、私にその苦しさや、辛さ、そして楽しさを毎日語ってくれました。」

脳裏に想い出が蘇る。小さい頃から、モンスターと一緒に育ってきた身でもあるのだ。

優しそうに教えてくれた母、厳しそうにモンスターに言葉を言い聞かせる父。だがその想い出は花火のように一瞬で消え散った。

「私の両親は殺されました」

消え散った花火は戻らない。

「モンスターを話すという理由だけで・・・町の人に」

自分の目の前で、儚く、もろく・・・花火は落ちた。

「だから、親ができなかったことが今してあげたい」

同じ火種を持っているけど、また違った花火を作れるかもしれない。

「お父さんから、お母さんから受け継がれたこの力で」



アルモンゴラに負けないほどの強い眼でリコリスはその神を見上げる。

こんな小さいのに、そんな想いをしてきたなんて。と思うのはアルミオンで。

今まで頼りなかった少女自身が頼もしく見える。



『貴様もまた、殺されてしまおうぞ。親の後を継いでな・・・』

これは警告なのだろうか。アルモンゴラはリコリスに言い放った。

モンスターと会話することで殺されたということが、どんな想いを奴に与えたのか。

「町の人たちが快く思うまでは、一人でモンスターを一緒に暮らしていきます。だから・・・」

『・・・』

アルモンゴラの大きな目は目の前の少女をとらえて離さなかった。





そのとき

ドスッ・・・

何か鈍い音とともに、アルモンゴラの体が揺れた―――。




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