ぺシリネ






「リコリス!お前すごいな!!」

プルートを封印して、安堵の息をつくリコリスに嬉しそうに駆け寄るシオン。

「あはは・・・。自分でもびっくりです。よかった・・・」

さきほどとは思えないような間の抜けた表情と声。彼女は本当に嬉しそうに顔を緩めてカードを大事そうにしまった。

「リコリス、お疲れさま。すごかったよ、あの時とは比べものにならないね」

アルミオンも、純粋に嬉しそうにしているリコリスに微笑みかける。

あのとき・・・アルモンゴラのときのことだろう。

ありがとうございます、とリコリスは照れくさそうに頬を紅らめて笑い返す。

フィーナはそんな微笑ましい光景を一部始終目にしたあと、

「さっさとここから出るぞ。馬刺しが煮えきってるころだろうからな」

踵をかえして元きた扉へと歩きだした。

あぁ、本当にリースのことだから暴れてないといいけど・・・とシオンたちも彼女がまっている入り口へと急ぎ足で戻っていった。







「のぉーーー!?わらわの出番がないじゃと!?」

入り口で、のんきに寝てたらしいリースは、みんなが来るなり飛び起きて無意味にも叫び散らす。

「せっかくわらわの大活躍をみせてやろうと思ったのにのぉー」

唇をとばらせて独り言のようにブツブツいっている彼女はあえて置いておこう。

「あとはマドラージェ遺跡だけだな」

確信したようにフィーナが言った。そして彼女がじっと自分を見ていることに気づくシオン。

「な、なんだよ?」

「いや・・・。特に大丈夫だろうな」

意味深な言葉を残したのち、フィーナは何事もなかったかのように歩き出そうとした・・・が。



前方で何かが動いている。まるで這っているかのように・・・。

「なんじゃ、あれは!?」

「・・・人間・・・だね」

目を凝らしてその不思議な姿を確認するリースとアルミオン。

そんな会話をしてるのにもかかわらず、素通りするのが冷淡な少女。

「おいっ!?助けないの!?」

慌ててというよりも、驚いたようにシオンはフィーナの前に回りこみ、足取りをとめる。

「今、そんな暇はないだろう。第一、どこの馬の骨ともわからないような人間を―――・・・」

「なんじゃ、この人間なら大丈夫じゃろう」

リースはうつぶせになっていたその謎な人物をひっくり返した。

頬に刺青のように模様がかかれている少年。服も、どこか変わった服だ。

「この人はー・・・?」

リコリスが首をかしげながら、その少年の顔を覗き込む。

苦しそうに何か呻いていた。

「ペシリネ族じゃ」

ペシリネ族は古代昔、ラクシスランドからテスタルトに漂流した神狐の子孫。

ただし、言葉が一般の人間と異なるため一般的には知られていない・・・。

まさに閉鎖された神秘の一族。

もちろん、選ばれし者の伝説も導き役のうわさも全部伝えられているのではないだろうか。

「神孤にしては、形がヒトらしい・・・。きっと子孫が増えるうちに人間の血も入っていったんだろうね」

アルミオンはリースとリコリスを下がらせ、その少年の傍らに膝をついた。

「うん、毒に犯されてるね。・・・アンチドート」

白魔法アンチドートを唱えると直後白い光に包まれ、みるみる少年の顔色はよくなっていった。

瞼が軽く動き、ゆっくりと少年が目を開ける。



「にょわッ!?☆□●×※*!?!?」

少年は今置かれている状態を瞬時に理解したのか、していないのか、上体を起こして意識が戻ったともいいきれないうちに奇声を出し始めた。

「大丈夫ですよ、落ちついてください」

宥めるように優しく言葉をリコリスが発すると、敵対する人間じゃないとわかったらしい。

大人しくなり、アルミオン、リコリス、リース、フィーナ、シオンを順に見上げていく。

「俺、どうしたんだっけ・・・」

「貴様、言葉がしゃべれるのか?」

目を細めてフィーナはその少年の顔を確認するようにしゃがみこむ。

「そんなの、当たり前ダヨ!ペシリネだって、もう数百年もテスタルトにいるんだかラ!!」

と少年はフィーナへと振り向く・・・すると、フィーナの額の宝石を発見したようだ。

それからじろじろと観察するように一行を再び眺める。

「あんた達が・・・あの例の神の遣い・・・!?いやぁ!よかった!

あの地震があったってことは伝説にきく闇が復活したってコトだろぅ!?どうなってるのか心配だったんダヨ!」

あっはははと、ハイテンションな笑い声をあげて神狐の少年は話を続ける。

「で、俺、あんた達にチカラ貸したい!でも、俺、集落離れるわけ行かない!だから、妹を連れてっテ!」

「力を貸したいと思うのならば足手まといを増やさないことだな」

皮肉をこめて、断るフィーナだったがそれにも少年は動じることもなく。

「お願い!きっと役にたつカラ!だからお願い!!!」

土下座するほど深く頭を下げていた。その必死の形相からは何か「役にたちたい」という理由以外があるように伺える。

「・・・」



足でまといにはならんじゃろうて。それに・・・なにか深い事情があるらしいしの」

リースの一言もあり、フィーナは小さく頷いた。

「あ、ありがとう!!!俺、先集落かえって妹に伝えてくる!集落はここから東にあるカラ!」

「あぁ。だが、そこに行くのはこっちの用が終わってからだ」

それから幾秒ともたたないうちに、少年の姿は見えなくなった。

さすが狐というべきか。

「なんか・・・不思議な一族なんだな」

シオンがその少年が消えた方向を見つめたままポツリと言った。

「うむ・・・。何かよからぬ予感がしたのぉ・・・」



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