神殿






神殿の中は不気味に足音が広がる。



ノサ、ノサ・・・



黒い影。それも奥の方から。

「何か近づいてきてる・・・」

シオンがつぶやくと、カルナも気付いていたらしく軽く頷く。

「えぇ。それも結構な数ですわ」

だが石の魔物ではないらしい。禍々しい気がまったく感じられない。

3人の前に群がったのは、頭に1本の大きな角のついた幼虫のような虫・・・。

「こいつはグラブオームですわ!」

そのカルナの甲高い声を合図にしたかのように、数匹のグラブオームは飛び掛ってきた。

「こいつらの角は危険ですの。気をつけてくださいな!」

槍でオームを弾きながら、カルナは注意を促した。

「わかってるけど!」

シオンも同じく剣をオームに向けていた。確かにカルナのいうように奴らの角は鋭く硬い。

それこそ、身体こそ貫くような・・・・。

見かねたフィーナが小さく呪文を唱え始めた。

「フィーナ、待て。ここで使ったら大変なことになるぞ!?」

シオンが阻止するまでは。だが賢明な判断かもしれない。

こんな、小さな神殿が多量のエネルギーを含む彼女の魔法に耐えられるとは考えがたい。

「奥義・・・魔人双刀突!!」

声と同時にオームのうめき声があがった。カルナの槍。それが奴に直撃したのだった。

硬い皮膚をも貫かれたオームはその場にどすっと横たわる。

「私はここでこいつらのお相手をしますから、お二人はお先にどうぞ♪」

オームの群れを見据えたまま、二人にそう言い放つ。

「じゃあ、お言葉にあまえて・・・フィーナ行こう!」

「あぁ、遠慮なく」

二人は先へ走り始めた。

続々と湧き出るオームを斬り捨てながら(フィーナに限っては蹴り捨てながら)。



カルナは平気だろうか。何匹もいるこいつらの相手を一人でなんて・・・・

そう思ってるうちに、目的の場所へとたどり着いた。

ギラギラと輝いて二人を待ってるように。1メートルくらいの大きさしかない。

そこから現れる魔物ももちろん、いつもと違う小柄な奴だった。

獣とたとえるよりも妖精に近い形状。翅すらも生えてる。



『あの方を邪魔をするのか』

魔物の声が静かな神殿内に延々と響いた。

あのお方とは闇の張本人、つまりダークヴォルマだろう。

『消すッ!!』

目の色が一瞬にして変わる。獲物を見つけた狼の目のようだ。

ぐにゃっという効果音がぴったりなように、妖精の腕の形が別のものを形成していく。

それは・・・まるで鎌のような。

それから隙もなく、シオンたちに間合いを詰めてきた。

勢いよく、腕・・・いや鎌を突き立ててきた。ギリギリなところでかわせたが恐ろしさを覚えたのは言うまでも無い。

「あぁ、もう!!なんなんだよ、こいつッ」

素早い動きゆえに、シオンの剣先すらも当らない。

それになんたって、空を舞う魔物だ。

避けるのに精一杯でそんな暇もない。



「こんなとき、あいつがいれば――・・・」

フィーナが不意に口にした一言。あいつ・・・?

(まさか・・・)

シオンもある人物を予想できたが、その思いは一瞬にしてかき消された。

左腕に痛烈なる痛みが走ったのだから。血が流れ、肘から床に垂れ落ちる。

「ち・・・!」

フィーナは魔物を隙をついて、足一本で跳ね飛ばした。

そして傷を一目見て、

「・・・それくらいなら大丈夫だな」

顔を歪めているシオンに冷淡に言い放った。

「まだ、なんとか」

拭っても拭っても流れてくる血を拭わなくなり、左手を庇うようにして剣を握りなおした。

フィーナはなにやら注意深く当りを見回していたが、すぐに納得したように頷いた。

「これくらいの広さなら問題ないだろう・・・」



『あの方の邪魔は決してさせない・・・』

倒れていた精霊が身軽に起き上がり、再び翅をばたつかせる。

「シオン、伏せろ!」

フィーナの叫び声と同時に、反射的にシオンはしゃがみこんだ。

すると、その刹那。

天からは雷。轟音をたてて、振り上げられた煌く鎌を目掛けて落雷した。

『ぎゃああぁぁッ!!!』

感電した奴はほんの、れいこんま数秒の間に地面にうつ伏せた。

(うわー・・・。危なっ)

自分に落ちていたかも、というおぞましい考えが浮かんだ。

「さぁ、さっさとしろ」

「あ、あぁ」

横たわる魔物が人の形に近いということに躊躇を覚えたが

横から突き刺さる鋭い視線から、剣を突き立てた。

そして一件落着・・・――









「さあ。もう帰りましょうか」

帰り途中に二人をまっていたカルナ。

「カルナもよくやったなー。かわいそうなぐらい・・・」

そこには山積みにされたグラブオームの無残な姿。

「まぁ、無事で何よりだけど」

「あら、私のこと信用してなかったんですの?」

カルナはからかうような笑みを浮べながら満足そうにいった。

「さて、近くの村にでもいきません?もうきっと外は暗いですわ」



「シオン、思ったのだが・・・」

カルナのいうとおり暗がりになった外をゆったりと歩いているとき

自らあまり口を開かないフィーナが唇を動かした。それを聞こうと必死だったのだが・・・

「お二人とも、もっときちんと歩いてくださいます?

それじゃあいつまでたっても村に着きませんわよ」

カルナによって聞くことができなかった。




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