心に残るモノ
シオンは町で傷ついた人たちの救出をしていた仲間たちのところへ合流した。
「シオンさん!お疲れ様です」
リコリスがまっさきにシオンに気づき、笑顔で迎えてくれた。
「火事も大分おさまったぜ」
「被害は大きかったけどね」
メルとグレンもシオンのところに近寄ってきた。
皆の表情にも、疲労の色が隠しきれていない。
そして最後にアルミオンが
「シオンさん、もしかしてあの光は・・・」
「うん、ディーゼルの力だよ」
シオンが答えると、アルミオンはやっぱり、と納得したようだった。
「今ディーゼルは?」
グレンが尋ねると
「悪いけど先に帰るって言って、ラクシアスランドに帰ったよ」とシオン。
あれからすぐ、シオンとディーゼルは別れていた。
「やっぱり、お前達だったか」
安心して話をしていた5人に、聞き覚えのある男の声がかかった。
闇に紛れて、あまりはっきりとはしなかったが黒い髪、セントラル王国の兵士の服に身を包んだその姿は見覚えがある。
「ラフィス!?」
久々の再会に歓喜の声をあげるシオン、リコリス、メル。グレンだけは面識がなく、首を傾げていたが「セントラル王国の司令官で、ラフィス・クロードノアだよ」と
アルミオンがこっそりと教えてあげ、「あぁ」と頷いた。
「エルドフェルの町がモンスターに襲われているという報告が入り、その救出に我々が向ったわけだが・・・それと同時に数人の旅人が退治をしてくれているという情報も入ってな。
そんな数人で乗り込むような奴ら、まさかとは思ったがお前達だったとはな」
ラフィスの後ろにはよく見ると数十人の兵士が規律よく並んでいた。モンスター退治にきたらしい。
このように、整列されるとものすごい威圧感が感じられる。また、ラフィスの最高指令官としての力量も自然と理解できる。
「どうやらオレたちはもう用なしらしいな」
ラフィスは町をぐるりと見渡すと、息をついた。
「まぁ、この町の復興作業は我々が受け持つ。お前達はもう帰ってゆっくり休むといい」
ラフィスが後ろに控えていた兵士達に「かかれ」と一言命じただけで、兵士は勢いよく八方に散っていった。けが人の介抱などを受け持ってくれている。
「ラフィスって本当に偉い人だったんだねー・・・」
メルがしみじみとラフィスを見つめる。いまさらながらに、ラフィスの凄さがわかるというものだ。
「ラフィスさんの言葉に甘えて僕たちは帰ろうか。きっといても邪魔になるね」
あまりの兵士の手際のよさにアルミオンは苦笑しながら言った。
さすがにここで竜に変身して、飛び立つわけにも行かず5人は森の中で暗闇に紛れて帰ろうとエルドフェルの町を後にしようとする。
そのとき
「シオン」
ラフィスに呼び止められ、シオンは一人彼のもとへとどまった。
「ディーゼルホフスのことをオレも夢見できいた」
ラフィスが言う。
「あの女が抱えている強い思い、それは恐らくフェーンフィートのこと。それから・・・シオン、お前のことだ」
「オレのこと・・・?」
シオンはぽかんとしていた。
(フェーンフィートのことのみなら、別にあの女は命を賭してこの世界を守ったのだから転生するまでもないはず。それなのに、わざわざこの世界に舞い戻ってきたのは・・・)
というのがラフィスの思うところであった。それを口にはしなかったが。
「つまり、ディーゼルホフスの記憶はお前次第ということだ」
いいたいことだけ言うと、ラフィスは踵を返して自らも復興作業へとむかった。
おそらく今のはラフィスなりの優しさなんだろうなと思い、シオンは微笑むと先に行った4人の仲間のもとへ走っていった。
『このまま皆をテスタルトの故郷のもとに送ってもいいけど・・・どうする?』
騒然とした町から数十メートル離れた森の仲で既にドラゴンと化したアルミオンは、皆に尋ねた。
うーん、と悩むメル、リコリス、グレンの視線は自然とシオンに集中した。そんな視線を知ってか知らずか
「ちょっとラクシアスランドでやり残したことがあるんだ。アルミオン、一度戻ってもらってもいいか?」
『もちろん』
シオンの胸の中には先ほどのラフィスの言葉があった。
4人はアルミオンの背中に乗り、大分明るんできた空へと飛び立った。
ラクシアスランドへ帰った皆は疲労もあってか、言葉どおり死んだように眠った。
何時間眠っただろうか、シオンは夢見もなく自然と目が覚めて起き上がった。太陽はもう高い。
何気なく窓の外に目をやると、深い緑色のものがなにやら森の中へ入り込んで行くのが見える。
あの姿は見間違えようもない、ディーゼルだ。
ラクシアスランドに戻ってきてからずっと寝ていたため、彼女とはあれで別れたっきり最後だった。
森なんかにはいってどうしたんだろう、とのん気なことを考えているとふと思い浮かんだ。
この窓は南西に面している。つまり、あの森は・・・
「フェネックさんから念を押された黒き森じゃあ・・・」
さすがのシオンも彼女一人で行かせるのはやばいと思ったのか、部屋から飛び出して一目散に黒き森へ向った。
「おはよ・・・」
それから少しして、グレンがダイニングに現れた。まだ眠たそうであったが、それよりもお腹がへったんだろう。
ダイニングから漂ういいにおいに誘われてベッドから起きてきた。
ダイニングにいたのはメル。
「おはよう」
一方のメルは眠気など感じさせないほどの笑顔でいった。
「お腹すいてるでしょ?昨日の夜から何も食べてないし。キッチン借りて御飯作ったから」
メルは、てきぱきと料理を盛っていく。サラダに、野菜がたっぷり入ったリゾット。
「シオン達は?」
グレンがきくと
「リコリスとアルミオンはまだ寝てるよ。シオンはさっき家から飛び出していくのが見えたけど・・・」
どうしたのかなと首をかしげる。
グレンの前に料理をおくとき、メルはグレンが体中いたるところに傷を負っていることに気づいた。
「グレン、大丈夫?怪我すごいけど」
グレンは、よほどお腹がすいていたのか黙々と食べ始めたがそういわれて
「誰かさんがトロトロしてたからな」
とメルのほうを見た。冗談まじりの皮肉だが、メルはムッとして
「悪かったわね」
グレンを睨むと、空っぽのバケツを手に水汲みに外へ出て行った。
いくらメルが弓矢の腕前がよくても、近距離の敵には威力を発揮できない。それを彼女自身嫌でも感じてしまい、気にしているのだ。
この夜、モンスターに攻撃されそうになったときも少し危うかった。
メルは、バケツを川の中につっこみそれを満たして行く。
助けてくれたグレンをちょっとだけ見直した自分が
(馬鹿だったわ・・・)
メルははぁ、とため息をつき水で一杯になったバケツをもって家へ帰っていった。
グレンはそのちょっとの間に、全部御飯を平らげていた。
サラダにつけていたにんじん以外は。
「にんじん嫌いなの?子供みたい」
メルがからかうと、グレンは
「こんなもん、うまいと思えるか」
と、顔を背けた。
「・・・なら今度、グレンが食べれるようなにんじん料理つくってあげるよ」
メルが食器を下げながら言った。
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