神の島

「はぁー…お前が世界をねぇ…?」

あれからすぐ、シオンはグレンの説得に向かった。

グレンの部屋のベッドに腰掛けて今までの流れ、それからこれからのことをすべて話した。

その間、グレンは疑いの目でシオンをみていた。

「全然ピンと来ねぇな。・・・あのときの大怪我を見てるから否定もできねぇけどよ」

まぁ、お前が言うんなら本当なんだろうなとグレンは納得したようで頷いた。

「あ、それとさ、グレン。このことは誰にも言わないでほしいんだ」

「あぁ、それは別にいいけどよ。どうせ誰も信じないだろうしな」

確かに、と二人は顔を見合わせて苦笑した。

「で、グレン。ラクシアスランドには一緒にいってくれるのか?」

シオンがきくと、グレンは「あぁ」と縦に首を振った。

「ラクシアスランドにいける機会なんてこれを逃したら一生ないだろうしな。オレも興味あるし」

「よかった!アルミオンが明日の朝、他の仲間を連れてくるからそれからが出発なんだけど…」

「おう。オレも明日までになんとか理由をつけて親父達にも旅の許可をもらっとくからな」

どことなくわくわくしてるようなグレン。シオンも一安心した。







コンコンッ

翌朝早くにシオン宅のドアがノックされた。

ドアを開けるとそこには・・・

「シオン、おっはよー!!久しぶりだね!」

「シオンさん、お久しぶりです!」

メルとリコリスが元気いっぱいに顔を出した。

「うわッ、メルとリコリス!全然かわってないなぁ」

「あはは、シオンもね!」

シオンは圧倒されつつも、懐かしい仲間の再会に素直に頬を綻ばせた。

二人とも、少々背が伸びたり髪の毛が伸びたりして大人っぽくなってるが、性格は昔のままで元気そうで安心した。

「あれ、シオンさん起きてたんだ?てっきりまだ寝てると思ったのになー」

その二人の後ろからアルミオンが顔を出した。確かにいつものシオンなら熟睡中なのだが・・・

「ちょっと眠れなくってさ。・・・あ、そだ。グレンもちゃんと説得しといたから大丈夫だよ」

シオンがニッと笑ってそういうと

「オレがなんだって?」

すっかり旅支度を整えたグレンが現れた。背中には彼の大切にしている大剣もある。

「あ、グレン。今から呼びに行こうとおもってたんだよ。出発だ」

「わかってるよ。朝からあんな大声で騒がれちゃな」

グレンがしれっと言うとメルが頬を膨らませて「感じわるい〜」と小声で言った。

「グレンさんですか?初めまして、リコリスです」

一方リコリスは律儀に頭を下げて自己紹介をしていた。それに習ったメルも、「メルトソールだよ。メルって呼んでね」と自己紹介。

「まぁ、みんな揃ったようだし、こんなところに留まってても意味ないからそろそろ出発しようか」

アルミオンはみんなに出発を促すと、村から少しはなれた森へ行き、竜となって翼を空へ広げた。





「すげぇ…。竜の背中なんて初めて乗るよ…」

アルミオンの背中の上で、ただただ純粋に感動するグレン。

だんだん高度を上げていくと、その輝いたような表情もこわばっていった。

ひたすらにすぎていく風景を眺めている。

そんなグレンの様子をみて、くすりと笑った少女が一人。メルだ。

笑われたグレンはむっとして

「なんだよ」

と低い口調で言うと

「いや、子供みたいでいい反応だなぁって思って」

悪びれもせずにメルがそういうとグレンの眉間に皺がよる。どうやら彼の癪に障ったようだ。

「おい、シオン。本当にこんなやつもお前の仲間だったのか?」

まるで弱そうじゃねぇか、とシオンに小声で囁く。シオンは苦笑しながら頷いた。

「でもメルの弓矢の腕は本物だよ。グレンだって今にわかるって」

「…」

グレンはいまだ不服そうな顔をしていた。だが、どうやら機嫌を損ねたからだけではないようだった。

顔色は蒼白になり、顔を歪めながら口を覆っている。そのただならぬグレンの様子に気づいたシオンは

「グレン…お前まさか…酔ったのか?」

竜の飛行に酔うなんてことがあるのだろうか、とも思ったが。しかしグレンは無言で頷いた。

だがここは海の上。途中で降ろすことなんて不可能である。

「アルミオンー!もう少し丁寧にまっすぐ進んでやってくれないかー!?」

シオンがそう叫ぶとアルミオンは「はいはい」とでも言うように一声鳴いた。

「あーでもラクシアスランドまであと少しだねー」

メルがものすごい風で目をシバシバさせながら前を見据えてそう告げた。どうやらラクシアスランドを見つけたらしい。

それにならってグレンも必死に前を見るが

「おい、島なんてみえねぇじゃねーか」

まったく島らしきものはみえなかった。ただ海が広がるばかり。

「グレンさん、メルの視力は7.0なんですよ」

リコリスがそう言う。

「7.0!?うそだろ!?」

(人間の目じゃねぇ…)

それからしばらくしてラクシアスランドがみんなにも見え始めた。

一見テスタルトとあまり変わりはない。自然に溢れるとても美しい島だ。

ただ島の周りを囲う海は荒れて渦を巻き、台風のようなひどい風が吹き荒れていて一般の人間にはいけない島といわれるのがよく分かる気がした。

この領域に入った時点で人は命を落すだろう。







やっとの思いで陸についたグレンが深く呼吸をした。

いまだ顔色は悪いが、さきほどよりはもしになったようだ。

「ようこそ、僕たちの島へ」

人の形に戻ったアルミオンが笑顔でみんなを歓迎した。

「人間がここに訪れたのは1000年ぶりだよ」

「1000年…ですか?」

リコリスが首をかしげると

「そう。1000年前に一人人間が訪れてね。…『ラフィス・クロードノア』だよ」

「ラフィス!?」

「ラフィスさんが!?」

「ここに!?」

シオン、リコリス、メルの三人が一斉に驚きの声をあげた。

「そう。シオンさんみたいにラフィスさんも神の斧を授かっててね。

なんでも神様に貰った斧が折れたとかで神様に修復をしてもらうためフェーンフィートさんにつれてきてもらったんだ。僕とフィーナもそのときにラフィスさんに出会ってたんだよ」

「へぇー…。確かにラフィスもお前らも初対面って感じじゃなかったような…気がしてきた」

そうだったのか、と感心するシオン。

「まぁそれはおいといて…。ここはラクシアスランド南の海岸線。エネルギー物質があるところだよ」

アルミオンが踵を返して、あたりを一通り見回した。アルミオンもエネルギー物質の詳しい場所までは知らないようだ。

「ねぇアルミオン」

メルが彼に呼びかけると、アルミオンは振り返る。

「先にグレンを休ませたほうがいいと思うんだけど…」

足元にしゃがみこむグレンを指差すメル。どうやらまだ気持ち悪いらしい。

「そうですね、私もちょっと休みたいです」

リコリスもグレンの様子をみて、そして賛同した。うーんとアルミオンは渋そうな顔をして迷っていたが

「じゃあ、少し歩いたところに僕たちの里がある。今日はそこに行こうか」

こっちだよ、と道を分け入ってみんなを案内した。





どれくらい歩いたところだろうか。静かな、落ち着いた集落らしきものが見え始めた。

木でできた家、流れる川の音。まるで、神の島とは思えないような一般的な空間だった。

「ここが…アルミオンやフィーナの故郷…」

シオンが一人、小さく呟いた。

「静かないいところですね」

「でももっとすっごいお城とかあるのかと思ってたー」

リコリスとメルもそれぞれの思いを口に出すと、アルミオンがくすりと笑った。

「予想外でがっかりした?でもね、ここの島はテスタルトみたいに都なんてない、各地にこうした集落があるだけの島なんだよ」

「じゃあ神様ってのは一体どこにいるんだ?」とシオン。

「神様は…あそこにいらっしゃるよ」

アルミオンが指したのは遠くの高台。そこに確かに神殿らしきものが見えた。これまた小さな神殿だ。

テスタルトに作られた教会のほうがよっぽど立派で大きい。本当にここはラクシアスランドなのか、とすら疑えてきた。

こんな風にのんびりと里内を歩いていると、ある家の前でアルミオンが立ち止まった。

「さぁ、ここが僕の家だよ」

どうぞ、とドアを開けられてぎこちなく入るシオンにリコリスにメル。よろよろと歩くグレンを支えながらアルミオンも家の中に入ると「ただいま」と声を上げた。



「あら、おかえりなさい。アルミオンファラール」

そこに現れたのはアルミオンの親と思われる人…ではない、白狐の女性だった。顔の模様がメルのお兄さん以上に出ているので純粋な狐なんだろうなと思える。

「うわぁ、本物の神の国の狐だぁー…!」

メルが瞳を輝かせてその女性を見つめる。

「アルミオンはこの人と一緒に住んでいるの?」

「ふふ。お嬢さん、私がアルミオンファラールの育ての親なのよ。フェネックバルトフォックスです」

優しく微笑んで女性――フェネックバルトフォックスはお辞儀した。

「育ての親?アルミオンってば捨て子?」などと首を傾げるメルとリコリスとシオン。そんな妙な疑惑のため、アルミオンは慌てて説明を加えた。

「ラクシアスランドの生物は大体石版で召喚されて生まれてくるんだよ。僕だってフィーナだってそう。

でも一人で生きていくことなんかできないから年配の召喚獣に面倒をみてもらうのが一般的なんだ」

僕とフィーナは幼馴染で家族だったんだ、とそういった。

へぇーと感心する3人の声に混じって「う゜ー」といううめき声が。グレンだ。話に夢中でグレンのことはすっかりと忘れられていた。

アルミオンは急いで彼を支えて「フェネックバルトさん、部屋ひとつ使うよ」と奥の部屋へと消えていってしまった。



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