旅路



フェネックバルトの家の前にいくとアルミオンとリコリスと、そしてもうすっかりと顔色のよくなったグレンが待っていた。

さきほどまで項垂れていたとは思えないほどピンピンだ。

「グレン、もう良くなったんだな!」

そんなグレンの姿をみて、シオンは彼に笑いかけた。

「おう。もう全快だ」

いつでも出発できるぜ、と意気込むグレン。

「意外と早く治ってよかったよ。・・・って、あれ?ディア?」

アルミオンは、シオンの後ろにいる少年に気づき、驚いたように彼を見た。

「よ、アルミオン!」

ディアは意気揚々と手を挙げて、アルミオンに笑いかけた。

「アルミオン、ディアと知り合いなのか?」

シオンが訊くと

「あぁ、うん。まぁこんな狭い集落だから皆知り合いなんだけどね。ディアとは年も近いし、昔からよく一緒にいたんだ」

と、アルミオン。年が近いということはディアも5000歳近くなんだろうかと、もはや樹齢のような壮大な年齢が思い浮かんだ。

これが一般化してしまったシオンの常識ももはやおかしい。そんなシオンをおいてディアはアルミオンに言う。

「オレもお前達と一緒に行きたいと思ってさ。な、いいだろ?」

目をキラキラさせてお願いするディアにうなり声を上げたアルミオンだが

「まぁ、ディアは言い出したら聞かない性格だし・・・別に僕はかまわないよ」

と、認めた。するとディアはますます目を輝かせ、歓喜の声を上げてはしゃいでいる。なかなかのお調子ものだ。

「ディアさん、リコリスです。よろしくお願いしますね」

「グレンだ」

リコリスとグレンが順に自己紹介すると、ディアは二人ににっこりと笑いかけた。

「よろしく!」

「さて・・・と。話もまとまったことだし、さっそく行こうか」

ディアの同行が認められたところでアルミオンが昨日着陸したところ――南の海岸線へ出発を切り出した。







ガササ



草むらで何かが蠢く。真っ白い大きな狼、ウォルフがこちらを威嚇しながら現れてきた。

「ウォルフだ。あんまり害がない獣だから、手を出したらいけないよ」

先頭を歩いていたアルミオンがみんなにそういったとき、ウォルフがグレンに向かって飛び掛ってきた。

「うおっ!?」

咄嗟のことで、避けようにも避けきれずグレンはその大きな手で投げ飛ばされた。グレンは素早く起き上がり、大剣をウォルフに向ける。

ウォルフは体制を低くして、みんなを睨みあげている。

「おい!害がないんじゃなかったのか!?」

「そのはずなんだけど・・・」

グレンが怒鳴ると、アルミオンも混乱してるのか曖昧な返事しかかえってこない。

しかし、ウォルフも襲ってくる気は満々なようでシオンもリコリスもメルもディアもみんな攻撃態勢をとった。

再び、ウォルフはグレンに襲いかかる。今度はグレンも大剣でうまくそれを交わし、相手の横腹を切りつけた。

『ギャウ!』

ウォルフは小さくうめき、6人からさっと距離をとった。そのまま退散するのかと思ったが、ウォルフは口を尖らせて青空に向かい

『ゥオーーン・・・』

高く、大きく遠吠えをした。

「なんだ?」

まずその異変に気づいたのはディア。

「なんか・・・地響きがするんだけど・・・」

そしてメル。

「あ、本当だ」

「地震か?」

さらにシオンとグレン。

「・・・って、みなさん大変ですよ!ウォルフの遠吠えは仲間を呼ぶ合図なんです!」

青ざめたリコリスがそういうや否や、もう6人の周りは大量のウォルフに包囲されていた。

「どうなってるんだよ、アルミオンー!!」

シオンは情けない声で、横にいるアルミオンに言う。視線はウォルフから外しはしないのだが。

「僕もウォルフに囲まれたのは初めてだよ・・・。領域を侵されたと思って怒ってるのか、もしかしたら人間の臭いが嫌いだとか・・・」

「そんなところにオレたちを連れてくるなよー!!」

シオンの叫びを合図にしたかのように、周りのウォルフは一斉に飛び掛ってきた。













「はぁ・・・はぁ・・・」

「もう、初っ端からこれじゃあ・・・先が思いやられるんだけどー・・・」

「ありえねぇよ・・・」

「でも、みなさん無事でよかったですね」

「これは無事っていうのか?」

シオン、メル、グレン、リコリス、ディアが地面にへたれこんでいた。みんな傷だらけのボロボロだ。

アルミオンはそんなみんなの治療に回ってる。

「それにしても・・・オレ、神の島はこんな凶暴な動物いないと思ってた・・・」

「あ、グレンに同じく、私もそう思ってた」

グレンとメルがアルミオンに愚痴っぽくそう零すと、アルミオンは苦笑い。

「そんなことないよ。弱肉強食はどこだって一緒だし、自然の理は変わらないよ」

「なぁなぁ、それよりアルミオンー。もうそろそろ暗くなってきたし(みんなボロボロだし)今日はここいらで休まないか?」

ディアが地面に寝転んだまま言う。彼の視線の先には、もういくつかの星が見えた。

「そうだね・・・。夜歩くのは危険だし・・・。それでいい?シオンさん」

ちょうどシオンの治療を終えたアルミオンは、顔を上げてシオンを目をあわす。

「あぁ、そうしよっか。・・・じゃあメル、ご飯の用意してくれるか?」

シオンが言うと、もう既に治療を受けてピンピンのメルは親指を立てて「了ッ解」と元気よく返す。




「この島は妙なところだよなー」

リコリスのモンスターが起こした焚き火を囲んでグレンが、すぐ隣に座るシオンに言う。

アルミオンは「痛い痛い」と喚いているディアの治療をしていて、リコリスはメルのお手伝いをしていた。
こうして二人で話すのもなんだか久しぶりな気がする。

「そうか?オレはおもしろいけど」

シオンはキョトンとして言う。

「テスタルトと全然変わりないのに、いるのはみんな神族。アルミオンもディアもメルも神族の血が流れてるなんてよー」

パキリとそこらに落ちている小枝を折り曲げて、グレンは炎の中にそれを放る。

「そんでお前も実は世界を救った偉い奴だったってか?本当に信じられねぇな」

グレンは、可笑しそうにクツクツと小さく笑う。

「でもあれはオレの力じゃないって。みんなのおかげだし」

シオンも小さく笑った。

「・・・オレもあの時、お前についていってればもっと違う世界が見えてたのかもなー」

グレンはそういいながら再び小枝を炎へ放り込んだ。

「シオンさん、グレンさん、ご飯できましたよー」

そのとき、リコリスがひょこひょこと歩いて来た。まるで2年前と変わっていない幼い顔。あの頃にもどったみたいだ。

リコリスは二人に料理ののった平たい葉を渡す。

こんなところなのでお皿は調達できなかったのだろう。二人は中身を落さないように慎重にうけとった。

葉の上には肉と野菜の炒め物と、小麦粉で作った薄いパンのようなものが盛られていた。

「・・・メルの作った料理なんて食えんのか?」

食べる前に念を押し、料理をマジマジと見つめるグレン。

「しっつれー!昔はお兄ちゃんの料理は全部私が作ってたんだからね!?」

アルミオンとディアの食事を運んできたメルが、頬を膨らませて文句を言う。

みんなが料理を受け取り、焚き火の回りに座り、夕飯タイムとなった。

それでもグレンは料理を疑っているようで・・・。

「グレン、食ってみればわかるよ」

シオンの一言で、グレンは思い切って一口、口へ運ぶ。

「・・・うまい」

「でしょ?」

メルはにっこりと笑って、自分も料理を口に運んだ。

確かにメルの料理の腕はプロ顔負け。2年前もメルが一緒に来てくれてからというもの、彼女が料理をほとんど作り、助かっていた。

「うん、メル。さすがだよ。また腕あげたんじゃない?リコリスもうまくなったよね」

アルミオンも料理には満足してるようで。

「あ、でも私はほとんど何もしてないんですよ」とリコリス。

「いや、でも昔より上手になってるよ」

「そうですか?ありがとうございます」

リコリスが嬉しそうに微笑んだ。

ディアは先ほどから無言でかきこんでいる。葉っぱごと飲みこみそうな勢いだ。

必死で食べてるからだろうか、時々むせているのだが。と、ここでシオンの脳に悪夢が思いだされた。

「・・・フィーナの料理はすごかったよな」

ぼそりと呟く。

メル、アルミオン、リコリス、それからディアも同意した。

いつも料理とは思えないものを作っていたのが彼女だ。

2年前、メルが一緒に来る前はシオンやアルミオンが大抵の料理当番だった。それほど彼女に食材を持たせたくなかった。

「大体さぁ、フィーナはフェーンフィートさんとこの料理をしょっちゅう食ってたくせに、どうしてあんなにおいしくない料理が作れるんだか・・・」

ディアがそういいながら、空になった葉を傍に置いた。

「フェーンフィートさんが料理がうまかったのか?」とシオン。

「そーだねー。なんというか・・・火力が違うんだよね。フェーンフィートさんの口から吹く火の加減がちょうどよくてね。鉄板焼きがすごい上手だったんだ」

とアルミオン。口から吹く火なんてさすがドラゴンだ。シオンは苦笑した。

「フィーナってあの変な女だろ?」

すっかり料理を空にしてしまったグレンが今度は口を開いた。

「そうそう。グレン、嫌ってたよなー」

「まぁな。・・・ごちそうさま」

空っぽになった葉を焚き火に放り込んで、グレンはその場に横になった。彼からは2秒ばかりで規則正しい寝息が聞こえ始めた。

「・・・グレンって・・・神経質なわりに寝るの2秒なんだね・・・」

メルは唖然とグレンを見た。

「もう寝るなら、モンスターを見張りとして出しておきますね」

リコリスはカードからモンスターを3匹くらい召喚し、その夜は何事もなくふけていった。




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