ワタツミ


――――シオン、遠いところからわざわざありがとう。召喚まであと5日、がんばってください―――

「シオンさん、朝だよ。早く起きて!」

バサッ

シオンの寝起きが悪いのは、まったく昔のまま。5分前からずっとアルミオンに起こされ続けていたのだが、ようやく目を覚ました。

「あー・・・。アルミオン、おはよ・・・」

「おはよう」

アルミオンは苦笑しながら挨拶を返す。

「おぉ、シオン。やっと起きたか。」

と、アルミオンの背後から顔をのぞかせたのはグレン。もう準備は整っているようだ。

「急がなきゃいけないんだろ?早く準備しちまえよ」

グレンに軽く(?)頭を小突かれて、大分頭が覚めたのかシオンは急いで準備に取り掛かった。

真紅のマントを身につけ、剣を腰につけたときに

「あ、シオン。おはよー。」

「おはようございます。」

「お、ついに起きたのか」

上からメル、リコリス、ディアの言葉。奥のほうの木の陰から3人の姿が見え始めた。どうやら、旅のための飲み水を汲みにいっていてくれたらしい。3人の

手には水の入ったボトルが握られていた。

「よし、準備もできたようだし!出発か!!」

ディアが勢いよく、声を発した。

「オレ達が向うのはこっちだよな?」

ディアは深く考えているのか、いないのかは分からないが目の前の道を力いっぱい指差す。

「・・・そっちは西だよ。僕達が向かうのはこっち」

アルミオンはディアの指から90度ずらしたほうに指をさす。その表情は少々呆れているようだ。







「えーと、このあたりにエネルギー体があると思うんだけど」

アルミオンは注意深く辺りを見回し、『エネルギー体』らしき物体を探す。

あれから更に歩き、奥に向った。あたりは木、木、木。ただ緑の葉をつけた木が枝を伸ばしてる光景のみが広がっている。皆もアルミオン同様、辺りを見回

すのだがそれらしき物体は発見できない。


ガサッガサッ

「!?」

茂みからなにやら、不思議な気配と奇妙な音。皆の注目がそこに注がれる。徐々に地面が揺れ、地響きもし始めた。

シオンは剣の柄に手をかけ、じっと茂みを睨む。

しばしの静寂が流れたあと、茂みからは轟音と共になにやら巨大なものが飛び出してきた。

否、地面を割るようにして大地から大蛇が飛び出してきた。

アルミオンファラールドラゴンにも負けず劣らずの巨大さ。その2つの眼光は鋭くシオン達を捕らえている。蒼色の鱗はテラテラと輝き、金属のようだ。

「・・・これってまさか」

リコリスが顔を蒼白させて口を開く。

「リヴァイアサンだ!皆、気をつけて!!」

アルミオンも同じく顔を蒼白させて声を上げた。それを合図にしたかのように、リヴァイアサンは頭をもたげてそのまま勢いをつけて突っ込んできた。

シオン達は飛ぶようにしてその場から逃げ、リヴァイアサンの行動に更に注意を集中した。

「でも・・・どうしてこんなところにリヴァイアサンが・・・。もともとは海にいる獣なのに」

リコリスは動揺したように目の前にいる敵を見上げた。ここは紛れもない森の中。しかもやつは、土の中から飛び出てきた。



シュンッ



メルの矢が、空を切りリヴァイアサンへと疾走した。しかし、屈強な鱗は難なくそれを弾き飛ばした。矢のような遠距離攻撃ではリヴァイアサンを傷つけるのは難しい。

キィィン

しかし、シオンの剣も綺麗に弾き飛ばされてしまい、リヴァイアサンに傷を負わせることはできなかった。

「リヴァイアサンは雷に弱いんだ。リコリス!雷系のモンスターを召喚して!!」

アルミオンは、リコリスに素早く指示を出す。リコリスは、腰にあるモンスターカードからパラパラとめくって雷系モンスターを探して行く・

・・のだが、次第にリコリスの顔色が悪くなっていく。みんなも「まさか・・・」と嫌な予感がしたようだ。

「すみません!!雷系モンスター、連れてきてませんでしたッ!!」

リコリスが泣きそうな叫びが無残に響く。

「なにぃぃ!?」

嫌な予感的中。皆が一斉に突っ込みをいれた。追い討ちをかけるように、ディアはリヴァイアサンの尻尾で一撃を喰らい、吹っ飛ばされた。

「リコリス。ここから西のほうに雷系モンスターが生息する谷がある。そこに行って封印してきてほしいんだ」

吹っ飛ばされたディアを一瞥したが、軽傷も負ってないことを確認するとアルミオンはリコリスにそう言った。

「ちょ、アルミオン。リコリス一人じゃいくらなんでも・・・!」

シオンがリヴァイアサンの攻撃をひたすら防ぎつつ言う。

「大丈夫。リコリスは時のモンスターさえも操れたんだ。なんとかなるよ」

「・・・はい!私、いってきます!!」

アルミオンの信頼を感じ取ったのか、リコリスは戸惑うことなくしっかりとした足取りで西のほうへと駆けていった。彼女の足音は間もなく小さくなっていく。

あとはとりあえず、時間稼ぎをすればいいだけ。

「メルは弓矢でオレたちを援護してくれ!」

シオンは後ろにいるメルに、そう言うと

「オッケー!」

メルはすぐさま弓矢をまとめて3本番えた。そのまま弦をひいていき、狙いをリヴァイアサンに定める。

「しっかりやれよ!!」

グレンがそう叫ぶや否や、地をけりリヴァイアサンに向っていった。リヴァイアサンもグレンに向って牙をむき突進してくる。

ドスッドスッドスッ

そのとき、リヴァイアサン腕の辺りを3本の矢が突き刺さった。どうやらメルの矢だ。リヴァイアサンはその痛みでバタバタと暴れ、しっぽを振り上げてグレンに振り下ろす。

「バーカ。どこ狙ってんだよ」

その刹那、振り上げられた尾はグレンの超重量級の大剣の力の前に血しぶきを上げた。真っ赤な血・・・ではない。緑色のドロドロした血だ。

グレンの大剣の刃にもべったりとそれがついている。

「グレンってばやるじゃん」

メルが新たな矢を番えながら、喜々とした声を上げた。するとグレンは得意げに答えた。

「当たり前だろ。お前こそ、さっきまではあいつの鱗に歯もたたなかったのに・・・」

「あぁ、それはディアのおかげだよー」

メルの背後には、自分の腰くらい大きな扇子を持ったディア。

「オレは風を使うことができる。メルの矢を加速さすことぐらい朝飯前さっ」

にっとディアが笑う。

しかし、その油断からか突如暴れだしたリヴァイアサンの攻撃を避けることができず、ディアは尾ではたき飛ばされ腕を強打した。とどめを刺そうとするリヴァイアサンの前に

シオンが立ち、懸命に攻撃を防いでいた。

ディアのもとにはすぐさまアルミオンが駆け寄り、ディアの赤くなった腕に自らの手をかざす。

「キュア」

ディアの腕から激痛が消えてゆく。彼の得意の白魔法だ。

「アルミオン、サンキュー!」

ディアは、立ち上がり体制を持ち直した。と、その時。



「皆さん!!お待たせして申し訳ありませんでした!!!」



リコリスが一枚のカードを手に、木々の間から走り寄ってくるのが見えた。

「雷系の、サンダルスさんです」

封印をとき、黄金の毛をしたリコリスほどの4本足の獣。見た目はかわいらしいが、これがあのドでかい猛獣に勝てるのだろうか?

「サンダルス、リヴァイアサンを大人しくさせて」

リコリスがそう命令すると同時、リヴァイアサンの頭はサンダルス目掛けて突撃してくる。リヴァイアサンが口を開き、サンダルスを一飲み・・・と思えたが。

パーーーンという轟音とともに激しい火花。その火花によりそこにいるものは皆目を瞑り何が起きたのかは確認できなかったが、目を開けたときには

リヴァイアサンの巨体が地面にへばりついていた。体は痙攣してい、意識もない。感電しているようだ。

役目を終えたサンダルスはカードの中に再び戻った。

「アルミオン、こいつのとどめは刺すのか?」

シオンが、リヴァイアサンを指さして問う。

「リヴァイアサンは海を守る神なんだ。殺したらいけない。・・・普段はもっと、穏やかな性格なんだけど。

とりあえず、リヴァイアサンが気絶しているうちに早くエネルギー体を探そう」

みんなが再びエネルギー体の捜索に着手し始めた。





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